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2018-04-25 10:43

仮想通貨に自由の大義あり 

田村 秀男  ジャーナリスト
 仮想通貨は金融バブルの塊、テロ資金の隠れみのなどと非難されがちだが、正体は国境を越える自由通貨である。対極が中国共産党政権の通貨、人民元だ。習近平政権はビットコインなど私家版仮想通貨を全面禁止した上で、国家版仮想通貨の発行をもくろむ。実現すれば、中国が国内外を問わず人民元を使う個人や企業、金融機関を全面統制するという、恐ろしい近未来図が浮かび上がる。習政権はビットコインなど仮想通貨退治に躍起となってきた。無国籍仮想通貨が資金流出を加速させ、虎の子の外貨準備を激減させかねないからだ。

 中国の外準は2014年8月に4兆ドル近くまで積み上がったが、翌年8月の人民元切り下げの後、急減し始めた。元安政策を嫌った投資家が人民元を外貨に換えて外に持ち出すからだ。当局は規制を強めて、いったんは外準の減少を食い止めたが、投資家はビットコインに殺到した。ビットコインはネットを通じて国外に楽々と移動し、ドルなど外貨に交換できるからだ。ビットコイン取引額は16年秋に急増し、11月に760億ドル、12月には850億ドルに達した。取引全額が資金流出につながるわけではないが、外準は11月に前月比690億ドル減ったことから、因果関係を無視できない。外準こそは現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」など、習政権が推進する対外膨張路線の原資だ。当局は翌年1月初旬にインターネットなどによる外貨送金規制を強化した。中国当局は接続業者をことごとく支配するなど、ネットの監視体制を整備してきた。同年1月下旬にはビットコイン取引がぴたっと止まった。当局の取り締まり能力の高さの表れだ。

 中国の投資家はそこで、香港など本土外の仮想通貨交換所に駆け込む。当局は抜け道を封じようとする。今年1月16日付のロイター通信の報道によれば、中国人民銀行の潘功勝副総裁は中国のユーザー向けに仮想通貨取引サービスを提供する国内外のウェブサイトや携帯端末向けアプリを遮断し、仮想通貨決済サービスを手掛けるプラットホームに制裁を科すべきとの見解を示しているという。無国籍仮想通貨を全面的に駆除するつもりだが、その狙いは国家版仮想通貨の発行にある。仮想通貨自体はITを駆使した通貨・金融の技術革新のたまもので、金融サービスを迅速にし、効率や利便性を高める。ビットコインのような仮想通貨は国家に縛られない自由がある。中国当局にとって、その自由が何よりも気にくわない。自由な特性を骨抜きにして、国家の意のままになる仮想通貨を夢想する。実際に、中国には人民元紙幣を仮想通貨に置き換えるだけの需要も素地もある。横行する偽札を無力化できる。次にはスマホを使った決済の普及だ。露店、コンビニから高級デパートに至るまでのショッピング、タクシー代金、さらには物乞いまでが2次元バーコード「QRコード」を手にして、スマホによる支払いが行われている。ネットショッピングも急拡大している。

 中国で出回るお金の総量に占める紙幣・硬貨の割合は今や5%に過ぎない。米国の8%、日本の9%に比べても驚くべき現金離れである。現金を除くカネは預金だが、預金通貨は銀行の帳簿上に追加記録される数値の合計、すなわちデジタル情報である。仮想通貨も金融取引データを追加して記録することで創出されるのだから、預金と同類の通貨とみなされる。中央銀行が国家版仮想通貨を導入すること自体、不自然ではない。日米欧の場合、金融や資本取引は自由化され、国家による統制は民主主義の下に極力制限され、オープンだ。ところが、ネットを中央政府が極端までに支配、監視するシステムの下に、法定通貨という通貨・金融の基盤が仮想通貨になってしまえばどうなるだろうか。人民元をやりとりするあらゆる情報は当局のデータセンターに送られ、監視対象になる。統制先は中国国内にとどまらず、中国と関わる全世界の個人や企業に及び、関係者は北京にひれ伏す羽目になる。習政権は指令一つで、対外投資を外国の企業や不動産買収に集中させる一方で、外準の減少を招く資金流出を徹底的に取り締まれる。対外膨張戦略は計画的かつ円滑に展開される。その中国と対抗できるのは、ビットコインなど無国籍仮想通貨だけだ。日米欧では仮想通貨への規制の強化など排除論も多いが、その前に中国に金融自由化を求めるべきだ。
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