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2018-04-06 12:25

トランプ外交の本質は“差し”での取引

田村 秀男  ジャーナリスト
 香港不動産業の盟主と称されてきた長江和記実業の李嘉誠主席(89)が現役を退く。李氏のビジネス哲学は徹底した収益至上主義で、李氏自身があらゆる労苦をいとわない。専制君主そのもので、気に入らなければ部下をばっさり切る冷徹さは際立つが、気さくに人に会い、会話し、決して逃げない。1997年7月の英領香港の中国返還の際には、中国の香港駐在員のために豪勢な官舎を寄付したばかりか、しばらくの間、夜には自ら必ず官舎に足を運び、御用をうかがったものだ。同じ不動産王上がりのドナルド・トランプ米大統領も目的達成のためには手段を選ばない。李氏は政治と距離を置いたのだが、トランプ氏は政治家になり、政治と外交を不動産ビジネス化した。

 トランプ政権では米金融界の代表格だった国家経済会議(NEC)のコーン委員長が辞任を表明したし、大手石油資本、エクソン・モービル会長だったティラーソン氏が国務長官解任となった。トランプ氏が動揺の色を見せないのは、不動産王の面目躍如と言うべきか。コーン氏辞任には鉄鋼・アルミ報復関税、ティラーソン氏更迭には北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との首脳会談開催がからむ。トランプ氏自身が目指すゴールの邪魔者は不要、というわけだ。自由貿易主義や伝統的な米国外交路線をあてにしてきた日本の当局者は、大いに戸惑っているのだが、相手は名うての不動産ビジネスマンなのだ。

 トランプ氏のやり口とは何か。3月10日付のトランプ氏のツイッターがヒントになる。その2日前には報復関税発表、1日前には米朝首脳会談開催が決まった。ツイッターはまず、「欧州連合(EU)は米国との貿易でひどいことをやっている」となじる。続けて、北朝鮮との会談合意を自賛したあと、安倍晋三首相との電話での会話に触れ、「安倍首相の話は米朝首脳協議に熱狂的だ。さらに、年1000億ドルに上る対日貿易収支是正に向けた日本市場開放について話した」とある。最後は、「中国の習近平国家主席とは北朝鮮の金正恩との会談について長話した。習氏は米国の外交的解決の姿勢を評価している。中国は引き続き役立つのだ!」。

 トランプ政権発足後、対米貿易黒字を急速に膨らませているのはもっぱら中国で、その次は欧州だ。トランプ氏が自由貿易協定を破棄すると脅しつけた韓国は対米黒字を減らしている。日本はほぼ横ばいだ。しかし、今秋の議会中間選挙に向け「米国第一主義」の成果を急ぐトランプ氏は安倍首相に対し、米朝首脳会談合意にからめて、実際には700億ドル弱の対日貿易赤字を1000億ドルとブラフをかけて、大幅譲歩を狙った。中国に対しては、この際、北朝鮮問題での協力優先、というわけで、対中強硬策は素知らぬ顔で別途進行中だ。トランプ外交とは要するに、首脳間取引主義であり、差しでの話を好む。安倍首相の地盤弱体化はまずい。
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