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2017-12-27 23:31

1ドル=100円より円安なら景気は大丈夫か?

田村 秀男  ジャーナリスト
 今年も残すところ後わずか。来年の景気はどうか、とよく聞かれるが、「現在のような円安水準が続く間は大丈夫ですよ」と答えている。景気は「気」、それは端的に企業経営者の見方に表れる。その点、日銀が四半期ごとに行う「全国企業短期経済観測調査」(短観)はその手がかりになる貴重なデータだ。とはいえ、日経新聞など専門紙の短観報道を読んでも、企業の業況判断以上の景気は見えにくい。何が景気の決め手なのかを理解していないと、短観を読み解くことはできないのだ。

 そこで、どう短観を読めばよいのかという問いに答えたい。日銀が先週、公表した短観の業況予測指数(DI=景気が「よい」と見る割合から「悪い」と見る割合を差し引いた数値)を円の対ドル相場と対照させてみる。期間は2012年12月のアベノミクス開始期間から現在までとする。円相場が1ドル=100円の水準を超えると、DIはプラスに転じる。円高に振れても100円のラインよりも高くならない限り、マイナスにはならない。業種、規模を問わず、100円ラインよりも円安であれば、景況感をよいとする企業が悪いとする企業よりも多いのだ。

 円相場とDIについて統計学上の相関係数を計算してみると、0・77(1が最高値)と極めて高い。円安と景気を関連付ける材料はほかにもいくつかある。財務省の法人企業統計調査の企業収益と円相場は高い相関度がある。円安は自動車など輸出企業を後押しし、設備投資に前向きになる。国内総生産(GDP)も上向き、景況感は全業種に浸透していく。円安は企業収益を好転させるので、株価も上昇する、という具合である。アベノミクス最大の狙いは実のところ、円安である。政府・日銀ともそれを公には認めないのは、「円安誘導」だと米国などからバッシングされかねないからだ。日銀がおカネを大量発行する異次元金融緩和は円安を実現し、その効果が薄れたと見るや日銀はマイナス金利政策に踏み切り、円安水準の維持に努めた。

 問題はこれからだ。まず、1ドル=110円前後の円相場水準は持続するのか。米利上げが事前予想よりも遅く緩やかなテンポであれば、日米間の金利差が広がらないとみられ、円高になりうる。トランプ政権の大型減税は世界の対米投資の魅力を高めるので、ドル高・円安になるが、米議会の調整が難航すると、逆にもなる。他方で、政府と与党は19年10月の消費税再増税に合わせて、所得税など増税を相次いで繰り出そうとしている。増税はデフレ要因であり、円高を招きやすい。円高に反転させたら、景気が逆戻りする。安倍晋三政権と日銀はそのことに気付いているのかどうか、心配になる。
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