国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百家争鳴」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2017-10-28 13:46

習近平政権2期目の「新時代」的人事

加藤 隆則  汕頭大学長江新聞與伝播学院教授
 習近平政権下で中国共産党指導部の文系化が進む。江沢民、胡錦濤の歴代指導者は理系出身で、イデオロギー重視の傾向が強かった。演説も理論用語が多く、それぞれ「三つの代表」論、「科学的発展観」の新理論を党規約に残した。だが、習近平は「中国の夢」「新時代」など、だれにでもわかる平易で、通俗的な物言いが目立つ。文学からの引用も多いが、泥臭い、義理人情に訴えるような表現もある。新常務委員7人を紹介する記者会見でも、習近平は古詩を引用し、「不要人誇顔色好、只留清気満乾坤」とスピーチを結んだ。元代の画人、王冕が、庭の梅を眺めながら詠んだ詩だ。読み下せば、「要(もと)めず 人の 顔色の好(よ)きを誇る。只だ留む 清気の乾坤に満つるを」、大意は「庭に咲く梅の花の色が美しいのを人に自慢しようとは思わない。ただ、清らかな香りがあまたに広がるのを望むだけだ」となる。

 人の評価ばかり気にしているのではなく、自分でしっかりやるべきことを実行しなければならない、とのメッセージを込めた。2期目のスタートに当たり、「空談誤国 実幹興邦」(空論は国を誤らせる。着実な仕事が国家を 振興させる)の信念を繰り返したことになる。口から出まかせを並べ、実態は大衆から遊離し、堕落し、腐敗した共産党の惨状が衆目にさらされている。その戒めである。社会が安定し、発展が複雑化、多様化するに従い、党も人事の登用にあたって実務の経験を重視している。発展の遅れた地方での業績が考課の大きなポイントになる。この点、異色なのが、地方経験が一切なく、江沢民政権以降、中央で一貫し、理論・イデオロギー面での仕事にかかわってきた王滬寧中央政策研究室主任(62)の抜擢だ。文化大革命時代、上海師範大で特設された外国語習得班に参加し、その後、語学力を生かして上海の復旦大大学院で国際政治を学んだ。同大教授、同大法学院長を経て、1995年から党中央政策研究室で理論研究に従事している。復旦大学時代、上海に一大勢力を築いていた江沢民から再三にわたって説得され、ようやく重い腰を上げた。権力欲の少ない、学究肌で、習近平にとっては扱いやすい人物だ。

 習近平の年代はみな文革時代、農村に送られ、農作業を経験した。知識分子を嫌い、実践を重視した毛沢東の下放政策だ。だから正統な高等教育を受けていない。みなランプを照らしながら、思い思いの読書をした。知的エリートに対するコンプレックスも背負っている。だが、王滬寧は異色だ。毛沢東は資本主義の「腐敗した思想」を排斥する一方、先進的な科学技術と企業管理には高い評価をし、西側の先進知識を学ぶため英語教育を重視した。1970年代、米国との関係打開が動き始めると、外国文化を排斥する文革中ではあったが、周恩来に命じ、外国語教育を早期に復活させ、翻訳要員の養成を急がせた。そこで1971年6月、北京外国語学院が800人の学生を募集したのをはじめ、全国に同様の動きが広がった。この計画によって上海で英語を学んだのが王滬寧である。

 習近平のスピーチは、「中華民族の偉大な復興」を多用しているように、民族感情に訴える表現が目立つ。革命色の濃い紅二代の匂いをプンプン漂わせている。どうみても王滬寧が考え出した言葉とは思えない。一方、習近平は、党の正統性を担う紅二代の代表を強く意識し、結党以来の一貫した理想を体現する存在として、自己演出をしている。この「一貫性」において、歴代指導者の理論を支えてきた王滬寧の存在意義は重い。王滬寧こそ、理系、文系を通じ、論理の一貫性を保証できる最高の逸材なのだ。第19回党大会で登場した「新時代」という新たな概念も、過去と現在、未来をつなぐ巧妙な仕掛けが感じられる。そこに王滬寧の筆先が加わっていると思わずにはいられない。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百家争鳴』から他のe-論壇『百花斉放』または『議論百出』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
東アジア共同体評議会