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2017-10-11 11:45

習政権の策謀に引っかかった米国

田村 秀男  ジャーナリスト
 国連安全保障理事会は9月初め、北朝鮮への新たな制裁決議案を採択した。原油や石油製品の輸出上限枠を設けたことや、北からの繊維製品輸入を禁止したことから、メディアの多くは「大幅な制裁強化」と評価するが、だまされてはいけない。外交官僚が「成果」を取り繕っただけである。中国が強力な米国案を葬り去ったというのが真相だ。石油製品上限枠、年間200万バレルの設定を例にとろう。対北輸出のほぼ全量が中国からの輸出である。中国の輸出入管理・税関事務を行う中国海関総署統計をもとに作成したのが本グラフである。パイプラインを通じた中国からの対北原油供給は同総署の管轄外だが、石油製品についてはデータを把握している。

 それによると、習近平政権下の中国は対北石油製品輸出を増やし続け、2016年年間で200万バレルの水準とし、2年半で倍増させた。そして、今年に入って減らし、7月までの1年間では158万バレルに落ち込んでいる。すると、今回の「制裁」による上限を大きく下回っているのだから、今後中国は制裁破りの非難を浴びることなく、北向けにガソリンや重油、軽油の輸出を増やせるではないか。国連制裁決議は原油の対北輸出を過去12カ月間の合計量、すなわち現状維持としており、削減されるわけではない。習政権は北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長に対し、「米国の石油禁輸案を引っ込めさせたし、従来通り供給できるようにした」とするメッセージを発したことになる。朝鮮戦争(1950年6月~53年7月)で北と「血の友誼」を交わした中国共産党の習総書記は今月の党大会で、「対米譲歩」の批判をかわし、権力基盤をさらに固めるわけだ。

 トランプ政権はまたもまんまと、習政権の策謀に引っかかったわけだが、これまでの安保理の制裁決議で石炭などの輸入を全面禁止しており、繊維製品を禁輸対象としたことで、米国のヘイリー国連大使は「北朝鮮の輸出額の9割以上が禁輸対象となった」と強調した。しかし、中国などを経由した迂回輸出ルートはいくらでもあり、実効のほどは疑わしい。トランプ大統領は北朝鮮の核実験直後の9月3日、「北朝鮮とのビジネス取引を行う国との貿易を停止する」と息巻いたが、対北制裁の最大の障害になっているのは中国だ。

 中国は石油製品と同様、鉄鋼製品も対北輸出を増やしてきた。石炭、そして今回の繊維のように、国連がいくら輸入禁止を決議しても、北は外貨の制約から免れている。北が輸入を増やせるのは、中国から信用を供与されているからだ。本欄で指摘してきたように、最も効き目のある対北抑止策は、中国の金融機関に対する制裁なのだ。その点、トランプ政権の一部は気付いているが、中国側の激しい反発を恐れてもいる。この期に及んでも同政権は「北を抑えられるのは中国」との幻想から抜け出せないのだ。
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