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2016-12-07 00:05

(連載1)脱炭素社会構築に向けた長期戦略に関する提言

廣野 良吉  成蹊大学名誉教授
 今日の持続不可能な社会の課題や脱炭素社会の構築の重要性については、この分野の研究者やその他関係者の間では従来から多々議論されてきたが、それ以外の専門家では多くの場合関心も低く、ましてや国民一般の間に理解が深まったとは感じられない。我が国では、国民一般の最大の関心事は、先の衆議院選挙や参議院選挙でも明白なように、景気回復、雇用拡大、社会保障の充実、大地震。防災対策等々身近な問題である。世界を覆う経済成長の鈍化、社会的不安・混乱が続く中で、人々の関心は目前の課題に集中しているのが現状である。しかし、地球温暖化が人間社会に将来もたらす諸々の被害に敏感な現在の若者の間では、漸くその課題の深刻さ、重要性に対して、真正面から向き合う姿勢も徐々に広がっている。日本各地で開催される大学祭では、ごみの分別・回収を初め、省エネやエコ活動が近年高まりを示しているのも、その一例である。日本の産業界の多くは、温室効果ガス(GHG)排出量が最も大きいエネルギー生産部門でも、GHG排出が相対的に高い化石燃料依存型火力発電の継続と不慮の爆発による人的・物的被害が極端に大きく、使用済み核燃料処理が高費用・不確定な原子力発電の存続に相変わらず固執している。我が国では、水力、風力、太陽光、バイオ発電等再生可能なエネルギー生産が総発電量に占める割合は、先進国で最低の7%に過ぎない。近年、環境に優しい投資案件に優遇金利を適用したり、グリーンボンドを発行する企業も徐々に観察されたり、本業での省エネ、省資源に本格的に取り組んでいる企業も国内各地で徐々に増えてきたが、相変わらず外資系企業やグローバルコンパクト企業等一部の企業に限られているに過ぎない。

 日本政府、国会も、以上の国内事情を反映して、脱炭素社会の早期構築には消極的であり、昨年12月のCOP21へ提出した我が国のGHG排出削減目標も、2005年を基準に2030年までに26%という低目標であり、2050年までに漸く80%削減ということで、今回も結果的には本年11月4日に発効したパリ条約の批准も遅れてしまった。国のGHG削減目標を上回る目標を設定している地方自治体も徐々に多くなりつつあるが、まだ少数派に留まっている。目を国際社会に向けると、今月公表された国際エネルギー機関(IEA)2016年報告によると、各締約国が自主的に設定した現在のGHG削減目標では、パリ条約で合意した地球上の平均気温上昇を産業革命前から摂氏2度未満に抑え、1.5度で安定化させるという目標達成は不可能であると指摘されている。さらに、パリ条約での目標達成のためには、20140年までに再生可能エネルギー普及を向けて75兆ドル(約8,200兆円)の投資が必要と訴えている。今月19日閉会したマラケシュでのCOP22では、2018年までにすべての締約国で自主削減目標達成のための詳細なルールを導入することと、2017年には先進国からの地球温暖化対策への支援額年間1,000億ドルの引き上げについての議論を始めることを決めた。なお、各国の長期的な自主的削減目標の見直しの検討を始める必要性についても、小規模島嶼国を含めていくつかの国々から発言があった。今後のCOPでは、特にGHG大量排出国である日本を含めた先進諸国と中国やインドでは、現在よりも一層高い削減目標の設定が不可欠となることが想定される。

 かかる危機意識の背後には、日本、米国を初め、UNFCCC締約各国が設定した2030年、2050年GHG削減自主目標にも拘わらず、現在の石炭、石油等化石燃料に依存した産業・経済社会状況では、地球上の平均温度は2050年までに摂氏2.1度、その後加速されて2100年までには2.7度上昇してしまうと予想があり、パリ条約で合意した21世紀末平均温度を産業革命から2度未満の上昇に抑え、1.5度で安定させるという前提を遥かに上回る結果となることが懸念される。ちなみに、IEAによると、2040年の世界全体のエネルギー構成(メインシナリオ)でも、一次エネルギー総需要量に対する化石燃料依存度は相変わらず74%(石炭23%、石油27%、天然ガス24%)に高止まり、再生可能エネルギーはわずかに20%、原子力が7%である。以上の現状認識にたって、我が国はパリ条約の実効を期すための詳細なルールの設定を2018年までに完了するという目的で設置された来年5月のUNFCCC作業部会の討議には積極的に参加し、パリ条約の基礎となっている総ての締約国による2020年以降の世界的なGHG削減目標の履行・達成へ向けて指導力を発揮することが望まれる。

 具体的には、GHG排出量が大きい締約国が自発的に設定している2025年、2030年、2040年、2050年のGHG削減目標を、それぞれ国際的に合意できる範囲内で前倒しするよう訴えると共に、2050-70年期間内にGHG削減ネットゼロ目標設定を全締約国に義務づけ、さらに2020年以降の削減目標の毎年の達成状況の検証を全締約国へ義務付け、目標未達成国には、何らかの国際的措置を講ずるルールを策定するよう、全締約国へ働きかける。なお、地球温暖化対策として既に合意された先進諸国による対途上国支援額年間1,000億ドルの引き上げ交渉が2017年に予定されているが、この面でも日本が積極的に貢献すると共に、途上国の税制改革、財政支出の適正化、ガバナンスの改善等を通じて、国内資金の動員・配分に一層の努力を促すことを働きかける。日本政府が国際社会、特にCOP23以降の国際交渉において指導力を発揮するためには、わが国が目指す脱炭素社会構築のための長期戦略を2017年5月のUNFCCC作業部会第1回会合までに策定し、必要な法制化・制度化・予算化で国会承認を予め得ることが大前提となる。脱炭素社会構築長期戦略の内容については、「地球・人間環境フォーラム」による「人間と地球のための持続可能な経済研究会」が脱炭素長期発展戦略(長期ビジョン)作成へ向けて本年11月に公表した「脱炭素で持続可能な社会の構築―15の提言」を初めとする多くの提言活動が現在活発化しているが、ここで、小生の個人的提言を述べていきたい。(つづく)
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