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2016-07-09 14:43

ADBの役割を破壊するAIIB

田村 秀男  ジャーナリスト
 英国の欧州連合(EU)離脱を支持する国民投票結果が、国際金融界を震撼させている最中の6月25日、北京では中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)の第1回総会が開かれた。総会で韓国代表、柳一鎬(ユ・イルホ)経済副首相兼企画財政部長官が「AIIBは金融危機緩和に役立つ」とはよくぞ言った。AIIBは資金調達力がなく泥舟同然なのだ。金立群AIIB総裁は、参加国数が同じくインフラ支援を行うアジア開発銀行(ADB)をしのぐ情勢だと胸を張るが、肝心なのは資金力である。AIIBは国際金融市場での信用に欠け、資金源は中韓の外貨準備をあてにするしかない。金総裁は中国政府がAIIBの特設ファンドにポンと5000万ドル(約51億円)を提供すると言うが、年間で5000億ドル(約51兆円)以上も外貨が減る中でやっとひねり出した。韓国はAIIB債を一部引き受けたそうだが、外貨不安がつきまとっている。

 AIIBに助け船を出したのはADBである。ADB総裁の中尾武彦氏は財務官出身で、現役当時からかなりの親中派として知られる。金総裁は鳩山由紀夫元首相に諮問委員会の委員就任を打診したそうだが、中尾氏ら対中協調派を目立たなくするための目くらまし工作なのだろう。ADBはこのほど、パキスタンの高速道路プロジェクトでAIIBとそれぞれ1億ドル(約102億円)を受け持つ協調融資を取り決めた。AIIBはこのほか3件のプロジェクトに融資する計画を発表したが、単独融資はバングラデシュ向けの1・65億ドル(約168億円)だけである。残りは欧州開発銀行や世界銀行との協調融資で、合計4件でのAIIB融資額は5億900万ドル(約519億円)。

 さてこの資金はどこからくるのか。ADBの金融報告書によると、昨年末時点でのADBからの最大の借り入れ国は中国である。その未実行額は76・7億ドル(約7827億円)もあり、昨年中に承認した新規分は20・5億ドル(約2092億円)もある。これらの融資はもちろん中国のプロジェクト用だが、なんか変だ。そもそも、みずからの主導でAIIBを設立し、「豊富」と自称する外準を使って他国にカネを貸すゆとりがあるのに、なぜ新規に借り入れるのか。

 ADB対中新規融資額は、AIIB融資額の4倍にも達する。北京がADB資金を流用すると断じるわけではないが、ADBから入ってくる外貨を利用すれば、外準を減らさなくても悠々とAIIB資金を工面できる計算になる。借金国が他国にカネを貸してもおかしくないし、AIIBは膨大なアジアのインフラ資金需要に対応できないADBを補完できる、と中尾氏はAIIBを一貫して擁護してきた。ならば、中国はADBからではなくAIIBから融資を受ければ済むし、ADBは中国に融資せずに、インフラ資金の不足している国にそっくり融資するのがスジというものだ。AIIBを仕切る中国はADBの役割を補完するどころか、破壊している。
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