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2007-01-03 13:26

台湾政治の潮流の変化と東アジア

舛島 貞  大学助教授
 アジア欧州会合(ASEM)が形成される過程で「東アジア」は実質上ASEAN+3としてスタートした。中国は、ASEANにコミットする中で国際的な地域枠組みへの足がかりを得てきた。他方、中国にとって、この枠組みのメリットは台湾を含んでいないことにもある。逆に台湾を含むAPECは必ずしも歓迎されない場だ。だが、東アジア・サミットの述べるように、機能を重視すれば、台湾を除外することは難しく、日本の提唱する民主主義や人権を共通の価値観にするとしても、台湾の除外はいっそう難しい。しかし、台湾が地域的な枠組みに単独参加することについては、中国は徹底的に反発するであろう。

 他方、中国と台湾の経済的関係はいっそう緊密になっている。それは物流のみならず、両岸の人的交流、また三通にともなう金門島民の対アモイ投資などでも見られる。そうした意味では、台湾は中国経済圏の一部となっているとも見られていた。そして、ここ数年の中国は、台湾独立を抑制する原則を定めた後は、特に台湾政界を刺激することは避けてきた。その背景には、陳水扁政権が危機に瀕し、次期総統選挙は国民党の馬英九候補が圧倒的に有利だとの認識があったからであろう。

 しかし、ここ2ヶ月でその流れは大きく変わった。馬英九国民党主席が起訴される可能性が高まり、また高雄市長選挙で民進党候補がかろうじて勝利する中で、2008年は民進党ではないかという勢いが生まれ始めた。陳水扁が泥まみれになりながら、馬英九を抱きしめつつ共倒れしていくというシナリオなのだろう。2004年10月、当時の陳唐山外交部長は、立法院外交委員会で、東アジア共同体形成に対して既に注意を喚起していた。そして2005年12月の東アジア・サミット以来、台湾では自らの国際社会での孤立をいっそう憂慮する声が目立つ。そこでは北朝鮮よりも対話対象とならないことへの絶望さえ見られる。

 他方、黄志芳・外交部部長は2006年3月、立法院の施政報告で興味深い指摘をした。「中国や日本などの大国の間で、将来の東アジア共同体の方向性について意見がわかれていることには注意が必要である。中国はASEAN+3を東アジア共同体の基礎にしようとしているが、日本はインド、ニュージーランド、オーストラリアの3国まで含みこもうとしている。この日本の方向性が採られて東アジア・サミットに参加する国々が拡大していったら、それはAPECと競合していく局面がうまれよう。この点、特に注意を要する。」ここを見れば、既にAPECに参加している台湾としては、東アジア共同体構想に参加できないのなら、APECの役割を薄めていく動きには警戒を示すということになるのである。ここにおいて、日本の路線が台湾からも警戒される可能性があることは、アメリカの目線とも合わせて、考慮すべき課題のひとつとなろう。その際、台湾の政治的動向が中国との融和路線に全面的に向かうというわけではないということも、背景として重要である。
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