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2016-04-07 10:26

(連載1)消費税増税は賃金デフレや格差を生む

田村 秀男  ジャーナリスト
 安倍晋三首相が賃上げを催促しても、「笛吹けども踊らず」だ。景気の先行き不安を理由に、大手企業が賃上げを渋った。全雇用の7割を占める中小企業もなおさらだろう。このままでは賃金が物価動向からかけ離れて下がる賃金デフレが再発する。平成9年水準を100として消費者物価、全産業の平均賃金、家計消費の推移を追ってみる。物価下落の度合いはきわめて緩やかなのに対し、賃金水準は急降下する。賃金が減ると国内総生産(GDP)の6割を占める家計消費が萎縮する日本型デフレ病だ。主因は賃金の下落である。安倍首相が賃上げを経団連などの経済界に求めてきたのは理にかなう。

 アベノミクスが始まった25年以降に焦点を合わせると、賃金は反転の兆しが見えたが、勢いは弱い。家計消費は25年に急回復したあと、ほぼ真っ逆さまに落ちている。原因は26年4月からの消費税増税である。消費税率アップが物価を押し上げたのに、賃上げは小幅だ。消費税増税による負の影響を増幅させたのが雇用構造である。小泉・竹中構造改革時代の14年、非正規は一挙に150万増え、正規は195万人減った。正社員の賃金動向を見ると、非正規雇用を含めた全雇用者の賃金に比べて下落幅はかなり緩やかで、リーマン・ショックを受けた21年まではほぼ物価動向に沿っている。そう、全体の賃金水準を押し下げたのは非正規雇用の急増である。

 厚生労働省によると、9年当時、全雇用(従業員)のうち非正規の比率は23%、27年は38%に上昇した。全雇用者数はこの間に359万人増えたが、正社員は505万人減り、非正規は863万人増えた。27年の非正規の平均賃金は月額で20・5万円、正社員32・1万円の64%弱である。低賃金の非正規雇用の急増が賃金デフレを引き起こしている。

 安倍首相は今、「1億総活躍社会」を唱え、同一労働同一賃金、さらに介護離職と待機児童解消を目指している。介護士や保育士の不足を引き起こす要因の一つは低賃金にある。非正規雇用問題も重ね合わせると、賃金デフレの解消こそ日本再生のための鍵を握る。そんな視点から、来年4月に予定されている消費税率再引き上げの中止と28年度の大型補正予算という財政出動のあり方を考えてみよう。(つづく)

 
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