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2015-12-12 17:34

(連載2)「爆買い」頼みの危ういGDP皮算用

田村 秀男  ジャーナリスト
 そんな現実からすれば、安倍晋三首相がめざす20年度、名目GDP600兆円の目標の達成は外国人旅行者抜きには考えにくい。訪日外国人は14年が1341万人で、15年は政府がもともと20年達成を目標としていた2000万人を上回る勢いだ。このまま増加基調が続けば、20年には3000万~4000万人が可能との期待が強い。そうなると14年に2兆円、15年は3兆~4兆円になりそうな外国人客消費が、年7兆~10兆円になるとの見通しも生まれる。

 こうした皮算用にはどれだけ意味があるのだろうか。まず、外国人消費の増大は中国人による爆買いが示すように、円安効果そのものである。上海の知人によると、日本で買う日本製電気製品は偽物の不安がないうえに、中国本土よりも価格がおおむね2~3割安いし、消費税も免税となる。上海では一介の主婦が近所や知りあいの買い物を代行するビジネスを始めているのだが、円高・人民元に為替相場のトレンドが変わった場合、爆買いの勢いはかなりそがれるだろう。それに、中国は資本逃避の急増により、外貨準備が急速に減少している。北京がいつ爆買い規制に乗り出すかわからない。600兆円達成の鍵が外国人消費、特に中国人爆買いというのでは、皮算用になってしまう恐れが強い。

 ここで再確認すべきは、やはり600兆円達成は内需の拡大なくしてありえない点だ。4~6月期、7~9月期の名目GDPはいずれも年換算で約500兆円(14年度49008兆円)にとどまっている。14年度を基点に20年度600兆円にするためには、年平均3・4%の名目成長率が必要だ。15年度507兆円が目安となるが、今のペースでは7兆円余りのハンディを負う。スタートで躓くと、16年度以降の成長率のハードルは高くなり、600兆円は遠のく。

 国内にはGDP600兆円を冷ややかに見るメディアや評論家が多いが、年率3.4%程度の平均成長率は1990~2012年の先進国平均値3.7%(日本0.3%)である。達成できないのは、日本の財政金融政策の失敗による。「爆買い」という円安のあだ花に惑わされず、まともな経済政策思想に日本の各界は目覚めるべきなのだ。(おわり)
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