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2006-12-18 06:30

アジア外交と対米関係の両立を図るべき

村上正泰  日本国際フォーラム主任研究員
 東アジア共同体については、賛成派であれ反対派であれ、往々にしてイメージ先行の思い込みの議論に陥ることが多い。東アジア共同体はこれから創り上げていこうというものであるが故に致し方ない面はあるのだが、あまりに物事を単純化した一面的な議論は有害無益である。その代表例が「アジアをとるのか、アメリカをとるのか」といった二者択一的な議論であろう。例えば、賛成派の中には、アメリカないしはグローバリズムに対抗するという観点から、アジア諸国が結束することの意義を説く論者がいる。他方、反対派の中には、東アジアの地域秩序に主導権を発揮しようとしている中国の勢力圏に飲み込まれる危険性があるとして、警戒感を示す論者がいる。

 たしかにこれらは一面の真実をついてはいるが、現実はさほど単純ではない。前者について言えば、アメリカがともすれば独善的な行動に陥りやすいのは事実であるし、アメリカ主導のグローバリズムに弊害があるのも否定できない。しかしながら、日米同盟はアジアの安定を支える上で重要な役割を果たしているし、経済的に見てもアジア諸国はアメリカと大きなつながりを有している。したがって、アメリカとの関係を対抗や排除という観点から捉えるのは不適切であるのみならず、アジアの地域統合の基本原理たり得ない。また、後者について言えば、現にアジアにおいて市場主導の形で進んでいる経済統合の動きを無視しているという問題がある。我が国はもちろんのこと、いかなるアジア諸国も今やこの不可逆的な流れから逃れることは不可能である。むしろ、我が国が中途半端な態度でいることがアジアの失望を生み、逆に中国のイニシアティブを許しているのである。

 このように考えてくると、我々は、東アジア共同体に向けたアジア戦略と対米協調路線との両立を図っていかなければならない。いささかありふれた結論ではあるが、現実の政治や外交においてはこうした基本的なことが意外と難しいのであり、その点を事あるごとに認識しておく必要がある。そもそも、アメリカとアジアの間でどのような関係を構築していくかという問題は、明治以来、我が国にとって宿命的な難問である。アジアにおける地域統合の動きという新たな現実を前にして、単純な二者択一の議論に逃げ込むのではなく、アジア外交と対米関係の両立に向けた慎重な配慮が必要である。

 重要なことは、実態を弁えない勝手な思い込みから決して議論すべきではないということである。我々は、既に60年以上前に、そうした思い込みが優先した共同体構想の破綻を見ている。すなわち、戦前の大東亜共栄圏という理念は、欧米列強の植民地支配に対するアンチテーゼとしての意味はあったものの、解放後のアジアが進むべき方向性を具体的に提示することはできず、各国の歴史的経緯や民族性の違いを無視して、我が国の都合を優先する傾向を強めた。それが、結局のところ、次第に排外主義へと転じていったのである。我が国の植民地統治にはさまざまな面があったが、現在に至る対日感情に大きな影を落としている背景を無視することはできない。もちろん東アジア共同体と大東亜共栄圏とを同一に論じることは適当でないが、こうした歴史的経験を教訓とするならば、我々は現実を直視することから出発すべきである。そして、そこで問われるべきは「アジアをとるのか、アメリカをとるのか」ということではなく、「アジアもとるし、アメリカもとる。そのためにはどうしたらいいのか」ということなのである。
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