国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百家争鳴」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2015-08-01 01:02

(連載2)「強い人民元」で自滅する中国

田村 秀男  ジャーナリスト
 中国の国内事情もある。特権層は香港経由でカリブ海などの租税回避地(タックスヘイブン)に資金をプールし、外資を装って本土に再投資して荒稼ぎしたカネを外に持ち出す。景気不振とともに資金の流出が増え、外貨準備が急速に減っている。元安だと資本逃避に拍車がかかる。中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)も、虎の子の外貨準備が減り続けると信用力が損なわれる。習近平政権のメンツは丸つぶれだ。

 習政権がとったのは株価引き上げ策である。株高にすれば国内の余剰資金を株式市場に呼び込めるし、個人消費を喚起すると期待できる。人民銀行は昨年11月から矢継ぎ早に利下げし、個人が借金して株を売買する信用取引資金の供給に乗り出した。党機関紙、人民日報は株高をはやし立てる。株価は急上昇を続けたが、停滞する実体景気との乖離が目立つ。まさしくバブル(泡)であり突然はじけた。個人投資家の株式投資口座数は6月末で2億7300万口で、新規口座開設数は6月までの3カ月間で4600万口に上る。上海、深●(=土へんに川)合計の株式時価総額(7月6日時点)は株価ピークの6月12日比で日本円換算416兆円、中国GDP(2014年)の3分の1相当が消滅した。

 共産党員数よりも多くなった個人投資家が習政権に不満を募らせる。株式市場から利子コストゼロの資金を調達して膨れた債務を帳消しにしようとした国有企業のもくろみも外れた。習政権にとっては政治危機に転化しかねない。人民元を改革し、変動相場制にしていれば、機動的な金融緩和によって景気をてこ入れし、元安に誘導できる。外資が投機攻勢を仕掛けても、為替変動リスクがあれば大量の株の投機売買を思いとどまるので、金融市場を全面的に自由化する道が開ける。だが、上海株暴落で党中央は逆に市場統制強化に走る。

 昨年11月中旬、北京は香港市場経由に限って外国人による上海株投資を解禁した。香港から大量に流入した外資は6月初旬、一斉に引き揚げ、暴落の引き金を引いた。北京にとっては金融自由化=党体制崩壊という悪夢を見る思いだっただろう。1日に施行された「国家安全法」は金融危機にも適用される。強権発動して外資取り締まりもありうる情勢だ。北京は人民元を国際通貨基金(IMF)に対し、国際準備通貨として認定させようとするが、そんな資格はないはずだ。(おわり)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百家争鳴』から他のe-論壇『百花斉放』または『議論百出』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
東アジア共同体評議会