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2006-11-20 06:22

アジアの通貨制度を考える

村上正泰  日本国際フォーラム主任研究員
 ノーベル賞経済学者のミルトン・フリードマンが11月16日に亡くなった。彼はマネタリズムの中心的人物として知られるが、通貨制度についても”The Case for Flexible Exchange Rates”という論文を書き、その後の通貨制度に関する議論に大きな影響を及ぼした。この論文の中でフリードマンは、賃金・物価には下方硬直性があり、為替相場よりも調整に時間とコストがかかることから、国内均衡と対外均衡を両立させる手段としては、変動相場制の方が望ましいと主張した。また、固定相場制は、変動相場制に比べて為替投機に極めて脆弱であるという点も見逃せない。この点は、アジア通貨危機を身近に経験した我々にとって、あまりにも明白であろう。

 これに対し、ロバート・マンデルやロナルド・マッキノンは、最適通貨圏の理論によりフリードマンを批判し、市場が統合されているなどの経済的性質によっては固定相場制や共通通貨の採用が望ましいと主張した。そもそも、変動相場制にすればマーケットがすべてを解決してくれるという訳ではない。変動相場制の下では、為替相場のボラティリティやミスアラインメントが顕在化してくる。我が国の過去30年間の歩みを振り返ってみても、為替相場の変動がもたした問題は無視し得ない。

 このように、固定相場制と変動相場制のどちらが望ましいかについて、一義的には断定できないというのが実状である。最近では、特に発展途上国において、カレンシー・ボードやドル化といった厳格な固定相場制と変動相場制という両極の為替制度(two corner solutions)のいずれかが選択される傾向にある。しかしながら、実際には、その中間的な制度が望ましい場合もあろう。例えば、国際経済研究所(IIE)のジョン・ウィリアムソンが主張している「BBCルール」(Basket、Band、Crawling)などである。

 東アジア諸国では、米ドルに対する事実上のペッグ制度が実質実効レートを不安定化させてきた。今後の米ドルの調整リスクを考えると、過度のドル依存の見直しが必要であるが、危機後の東アジアにおいては、実態的に再び米ドルとの連動性を高めている。この地域では、米国だけでなく日本や他の東アジア諸国同士の間で密接な経済的結びつきを強めており、米ドルのみに連動することには弊害が多い。むしろ、域内の経済的相互依存関係が深化していく中にあっては、域内国の為替制度は当該国のみならず周辺国にも大きな影響を及ぼすことから、独自の通貨圏を検討する意義は大きい。しかしながら、欧州におけるユーロのような共通通貨をただちに想定することは不可能であり、将来的な共通通貨の可能性を念頭に置きながらも、通貨バスケットなどから段階的に検討を進めていくべきであろう。

 その際に大きな問題となるのが米国との関係である。米ドルの比重を相対的に低下させていくとしても、米ドルの完全な排除は不可能である。東アジア共同体をめぐっては、米国との関係がしばしば問題とされるけれども、通貨問題についても同様である。単に米ドル依存からの脱却と言っているだけで終わる話ではない。具体的な制度設計を検討する際には、米国との対話も不可欠である。
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