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2015-02-22 12:53

人質事件における安倍首相責任論について

加藤 朗  桜美林大学教授
 人質事件が最悪の結末に終わって、いよいよ安倍首相の責任追及が始まった。論点は二つ。第一は、2億ドルの人道支援援助の演説の適否。第二は、昨年湯川遥菜氏と後藤健二氏が人質に取られてから身代金要求事件が発生するまでの対応。第一の論点については、「イスラム国」と戦う国々を支援すると宣言したこと、そしてイスラエルのネタニヤフ首相とテロとの戦いに取り組むと宣言したこと、が問題として指摘されている(黒木英充・東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所教授『朝日新聞』2015年2月2日朝刊)。

 前者については、イスラム国を挑発したのではないかとの批判がある。宣言をしたからイスラム国と日本が敵対関係になったわけでもなく、二人が拘束されたわけでもない。イスラム国の前身であるイラクのアルカイーダの時代には、すでに日本は反イスラム戦線の一翼を担う国家としてイスラム過激派とは敵対関係にあった。2004年10月には、自衛隊の撤退を求めるイラクのアルカイーダに香田証生氏が殺害されている。湯川遥菜氏の扱いに困り、また後藤健二氏との秘密裏の身代金交渉もうまくいかず、イスラム国は彼らのもっともうまい利用法を考えていたのだろう。そこに安倍首相が中東を訪問してイスラム国と戦う国に2億ドルの人道支援をするとの演説をした。それを口実として、イスラム国は宣伝のための絶好の機会ととらえ、2億ドルもの身代金要求を突き付けたのだろう。安倍首相がイスラム国を挑発するような演説をしなければ事件は起きなかったかどうかはわからない。ただイスラム国が初めから日本政府と交渉するつもりなどなかったことは、ヨルダン人パイロットが事件発生前に殺害されていたことで明らかだ。

 後者については、そもそもイスラム国にはイスラエルなど眼中にない。実際、彼らが掲げる目標は、かつてあったイスラムの版図の再興である。パレスチナが目指す国民国家の復興ではない。パレスチナを支援するアラブ諸国やアラブ民衆にとって、日本がイスラエルと共闘することは敵対行為にうつるであろう。しかし、イスラム世界の拡張を目指すイスラム国にとって、日本がイスラエルと友好関係にあろうがなかろうが、イスラム国に敵対するものはすべて敵という論理しかない。イスラエルとテロで共闘したからと言って、それが今回の事件の原因になったわけではない。

 第二の問題、事件が発生するまでの対応が正しかったかどうかである。この点についての検証は十分に行う必要がある。特に、中田考氏と常岡浩介氏の問題である。彼らは、イスラム国に人脈を持っていた。それなのに、その人脈を利用しなかったのはなぜか。元レバノン大使の天木直人氏が「BLOGOS」で記しているように、第一に外務省のプライド、第二にアメリカの圧力、第三にアメリカの意向を忖度した日本政府の自制を推測している。それに加えて、好意的に考えれば、何らかの交渉が行われており、その邪魔とならないように中田、常岡ルートを使わなかった。いずれであれ結果的に両氏の人脈は使われなかった。また後藤氏の家族あてに身代金要求のメールが来た時に政府はどのように対応したのか。全く闇の中である。家族に身代金の支払いを拒否するように要請したのか、時間稼ぎをするように助言したのか、いずれにせよ、イスラム国とどのようなやり取りがあったのかは十分に検証する必要がある。安倍首相の責任追及はこれから本格するだろうが、今後の教訓となるように責任の追及を行うべきであろう。ゆめゆめ反安倍の政争の具に使うことのないように野党にはお願いしておく。
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