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2015-01-24 11:50

(連載1)日本の格差問題の本質

田村 秀男  ジャーナリスト
 ことしは日本でも格差是正に向けた議論が高まりそうだが、問題の本質はどこにあるだろうか。まず、仏経済学者のトマ・ピケティは世界的なベストセラー『21世紀の資本』で「資本収益率が産出と所得の成長率を上回るとき、資本主義は自動的に、恣意的で持続不可能な格差を生み出す」(邦訳本=みすず書房刊=の内容紹介から)と断じている。それを「ピケティの定理」と名付けよう。

 最近の日本はどうか、さっそくデータを調べてみた。まずは、法人企業統計(財務省)からとった総資本経常利益率を「資本収益率」に、国内総生産(GDP)の実質成長率を「産出と所得の成長率」にみなして、それらの推移を追ってみた。すると、興味深いことに1997年度以降、資本収益率が実質成長率を一貫して上回っているではないか。それまではおおむね成長率のほうが収益率を上回ってきた。下回ったときは石油危機、プラザ合意による急激な円高、90年代前半のバブル崩壊というふうな「ショック効果」と言うべきで、成長率は1,2年で元通り収益率を上回る軌道に回帰している。ピケティの定理を前提にするなら、日本経済は97年度以降、「格差」の時代に突入したことになる。

 97年度と言えば、橋本龍太郎政権が消費税増税と公共投資削減など緊縮財政路線に踏み切り、日本経済は一挙に慢性デフレ局面にはまりこみ、今なお抜け出られないでいる。経済の実額規模である名目GDPは2013年度、97年度に比べて7.3%、38兆円のマイナス、国民一人当たりで年間3万円も少ないのだ。「デフレは企業者の生産制限を導き、労働と企業にとって貧困化を意味する。したがって、雇用にとっては災厄になる」と、かのケインズは喝破したが、格差拡大所得の元になるGDPが縮小してみんな等しく貧しくなるわけではない。

 デフレは格差拡大の元凶である。一般に現役世代の賃金水準が下がるのに比べ、預金など金融資産を持っている富裕層はカネの価値が上がるのでますます豊かになる。給付水準が一定の年金生活者は有利だし、勤労者でも給与カットの恐れがない大企業や公務員は恵まれている。デフレで売上額が下がる中小企業の従業員は賃下げの憂き目にあいやすい。デフレは円高を呼び込むので、生産の空洞化が進み、地方経済は疲弊する。若者の雇用の機会は失われる。(つづく)
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