国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百家争鳴」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2014-08-29 12:44

欧米がリビアにもたらしたものは混乱と悲劇である

川上 高司  拓殖大学教授
 3年前の2011年、イギリス、フランス、アメリカを中心として、NATOはリビアの反政府勢力を支援するべく空爆を実施した。そして権力の座にあったカダフィは追い詰められ排除された。ところがその1年後には、当時の外交官だったスティーブンス氏が武装勢力によって殺害される悲劇が起こった。2014年7月27日、アメリカの大使館は閉鎖を決定し大使館関係者はトリポリの国際空港からチュニジアへ向けて脱出した。

 脱出時、国際空港の上空は米軍機が旋回して武装勢力を威嚇したため無事脱出できた。イギリス大使館関係者は陸路を選択して脱出を試みたが、武装勢力に襲われて命からがらの逃避行となった。国連も事務所を閉鎖、ヨーロッパ各国は自国民に対してリビアからの即刻退去を求めている。それほどまでにリビアの状況は悪化している。NATOの空爆の後、権力と富をめぐる武装グループの抗争は激しさを増し、政治家は殺害され外交官は誘拐の標的となり市民も命を狙われ、水も電力も供給されずリビアはもはや国家として機能していない。

 リビアに「アラブの風」が吹き始めると 反カダフィの闘争のために欧米諸国はこぞって反政府グループを支援した。やがてその支援を奪い合って反政府グループ同士で抗争が始まった。民主化は順調に進んだように見えたが、実は核となる強い政府が不在だった。そのためいくつかの民兵組織の力が強まり、そこかしこの地方の勢力や実力者と結びついて権力をもつようになり、彼らは権力闘争に明け暮れている。

 彼らには石油の収入があるので資金には不自由しておらず、欧米の支援に頼る必要がない。シリアの内戦では反政府側に対して支援をしている欧米の影響力が強いが、リビアでは欧米の影響力はほとんどない。資金が豊富なので闘争に終わりがなくエスカレートするばかりである。3年前の欧米の力による体制の変更がリビアにもたらしたものは、さらなる混乱と悲劇だった。シリアとは異なり、ほとんど国際社会の関心がないがリビアもまた内戦に苦しんでいるのである。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百家争鳴』から他のe-論壇『百花斉放』または『議論百出』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
東アジア共同体評議会