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2014-06-25 06:55

米はイランと“共闘”してでもISISを排除せよ

杉浦 正章  政治評論家
 打つ手がないからといって、「次はニューヨークだ」と息巻くテロリスト集団を野放しに出来るのか。シリア内戦で力をつけたアルカイダ系テロリスト集団「イラク・シリアのイスラム国(ISIS)」のイラク侵攻に米国が手をこまねいていれば、史上初のテロリスト国家がシリアとイラクの国境に樹立されかねない情勢にある。スンニ派を基盤としているISISとの戦闘は、シーア派との宗教対立に巻き込まれて、ベトナム戦争並みの泥沼となり得る。大統領オバマの選択肢にはありえないことであろう。しかし米国が動かなければ事態は好転しない。米国は中東でかつてないほどのジレンマに陥っているが、ここはたとえイランと“共闘”を組んででも、テロリスト排除に動くべきであろう。ISISが強力なのか、イラク軍が弱いのか、イラク第2の都市モスルはたった1日で制圧されてしまった。1万数千人の集団でその10倍のイラク軍を潰走させたことになる。テロリスト集団は捕虜のイラク兵に対して血も凍るような惨殺を繰り返したといわれる。ISISはシリア内戦が生んだ化け物といえる。アサド政権を倒すためにサウジアラビアなどが資金援助した反政府勢力だ。3年にわたり実戦に従事して力を付け、武器も弾薬も豊富だ。

 ISISにからんで米国は2つの大矛盾に直面している。1つは、シリアのアサド政権打倒に向けてスンニ派のISISなど反政府組織を支援してきたが、これがアルカイダも「過激すぎる」と驚く超過激派に成長して、イラクで内戦を仕掛けるまでに到ったこと。もう1つは、長年対立してきたイランと米国が反ISISでは一致することである。ISISの狙いは明らかにシリアとイラクの国境地帯にスンニ派のイスラム国家を樹立するところにあり、イラクはスンニ派、クルド自治区、シーア派に3分裂する様相を強めている。シーア派のマリキ政権はあらゆる政府の重要ポストからスンニ派を遠ざけ、シーア派に片寄った政権運営をしてきたが、その8年間のツケがいま回ってきたというところだ。これはアメリカがイラクで目指した挙国一致体制の国家樹立とは逆の方向であるが、オバマが余りにも性急な「完全撤退」をしてしまったことにも原因がある。少なくとも5千人程度を残しておけば、マリキの独走を防げたという見方が強い。

 オバマもテロとの戦いの旗を降ろすわけにはいくまいが、地上軍の投入は、はやばやと否定している。残る対応は空爆だが、ISISはいまや市民の中に紛れ込んでおり、空爆は誤爆の可能性の高いものとなっている。空爆と言っても地上情報がなければ実施できるものではなく、米軍事顧問団はその地上情報を得るために送り込んだもののようだ。しかし、最大300人が限度では出来ることは限られている。米国務長官・ケリーは6月16日、ISISのさらなる進撃を阻止するために、 イランとの協力を模索する可能性を示唆した。シーア派国家のイランはマリキ政権とも親密な関係にあり、大統領・ロウハニも「テロとの戦いでは米国と協力する」と述べている。しかし米国内では「イランを信用すべきではない」との警戒心が根強く存在しており、オバマも判断を迫られているところであろう。

 米国は総じて厭戦(えんせん)気分が横溢しており、世論調査でも中東で3度目の戦争をすることには反対する声が圧倒的だ。しかしISISの台頭は、ウクライナ問題を抱えるヨーロッパと、南・東シナ海で中国の覇権に遭遇しているアジアに加えて、中東でも導火線に火が点いた事を意味する。米国は2正面作戦どころが3正面作戦を強いられているのが現状だ。だが、ここで米国はひるんではなるまい。シリアに加えてイラクが本格的な内戦状態に発展すれば、中東情勢は抜き差しならぬ状態に突入する。ここは対立してきたイランと“共闘”を組んでも、テロリスト集団を排除すべきであろう。同時に国連安保理も事態を真剣にとらえて、行動を起こすべき時だ。日本は首相・安倍晋三が明言しているとおり中東の戦争に自衛隊を派遣することはあり得ないが、イランで50万人、シリアで800万人の難民支援を国連を通じて早期に行うべきであろう。難民支援は戦闘地域の縮小と若者のテロ集団入り防止につながり、間接的ながら問題解決の重要なポイントであるからだ。
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