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2006-10-17 10:05

グローバルな問題群と地域統合の対応

舛島 貞  大学助教授
 地球規模での政治を見ていく場合、地域で見ていく方法と、問題から見ていく方法がある。地域のほうは分かりやすいだろうが、問題については、環境、エネルギー、ジェンダー、食糧、海賊、災害、衛星、防疫、貧困、知的財産保護、テロ対策、平和構築、民主主義などといったことが想定されている。こういった諸問題は、地域的な特性をもちつつも地球規模で発生している。そして、それを解決するための枠組みが、国際連合などの国際組織、諸国家、地域統合体、あるいは企業、NPO、団体、個人などによって多元的に担われてきている。

 現在、「東アジア共同体」の基盤となっているASEAN+3は、こうした地球規模の諸問題に対応するかたちで様々な地域的な秩序形成のための枠組み、制度を形成してきた。これは、グローバル化する世界の一角において、地域的な国際公共財を創出する試みでもあった。同時に、それらの諸問題を共有できる範囲は、日常的な経済活動などによって規定されてくるということが大切だ。だからこそ、「東アジア」は地域概念でありながら、同時に機能的な側面を強くもつものであるため、一元的な地域的領域をもつわけではないということになる。

 田中明彦氏は「対アジア外交を立て直せ」(2006年10月2日付け「CEACコラム」掲載)において、「現在の経済的相互依存、社会的接触の機会拡大をいかした『心と心のふれ合い』を実現すべく努力する必要がある」としている。田中氏が想定しているのは日中韓であるが、これは東アジア全体にも言えることである。東アジア共同体が、機能面を重視し、そして枠組みや制度に裏打ちされるものとして想定されているとはいえ、その機能を担い、制度を運用していくのはあくまでもヒトである。

 では、それにいかに地域的な意味合いをもたせるのだろう。しばしば、東アジア共同体のアイデンティティが話題になる。そして、民主主義などの普遍価値がその結集核として挙げられる。だが、筆者は、田中氏の述べる「ふれあい」の度合いが結果的に濃い相手の集まり、それがこの東アジア共同体ということになるのだと思う。もともと、地球規模の多様な問題群への地域的対応や、実質的な機能面を重視して構想されているだけに、アイデンティティや心のよりどころのような議論になると、東アジア共同体論は迷走しがちになる。そして上述の民主主義などの普遍的理念を掲げるしかなくなり、そうなると焦点がぼけていく印象もある。

 だが、結論的には、田中氏の述べるような「ふれあい」の度合いが濃い(これは機能や実質的な交流の多さに裏打ちされる)ということ以外にはその結集核はないのであろう。それは、実質的な諸関係が緊密である地域に形成された、緩やかな、また非排他的なネットワーキングの存在を、心のレベルで感じ取り、内在化すること、またそれを外から確認する相手と常に関わっていくことに他ならないだろう。
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