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2013-10-29 07:05

普通の国へ安保政策大転換の幕開け

杉浦 正章  政治評論家
 普通の国と異常な国を端的に分ければ、米、英、仏、独が普通の国。異常な国の筆頭は北朝鮮であり、中国であろう。その異常な国に取り囲まれている日本が普通の国になろうとしているだけなのに、あたかもそれが「全体主義への突破口であり、軍事国家への第一歩である」などという議論が盛りあがっている。戦後70年になろうとしているが、そろそろ国の安全保障が天から降ってくると思うような「思考停止の平和ぼけ」を改めるべき時だ。緊張の度を増している極東情勢を前にして、戸締まりをよくして、万一の時は警官を呼ぶ、普通の家庭のやることを国家がやるだけのことだ。10月28日、国会での審議が始まった外交・安全保障政策の司令塔となる国家安全保障会議(NSC)設置法案と、来月から審議入りする情報保全体制強化のための特定秘密保護法案は、ともに普通の国への一歩を記すものであり、一国平和主義の平和ぼけ国家がやっと警戒心に目覚めたことを意味する。戦後の安保政策の大転換への幕開けとなるものである。この大転換が可能となった背景には、国民の判断がある。総選挙と参院選挙で安倍政権を圧勝させたのは、紛れもなく中国による尖閣諸島への進出と、北の核兵器・ミサイルのどう喝にある。まさに強盗が家の周りを徘徊して、隙あらば侵入しようと狙っているのに、これまで通り、のほほんと戸締まりしないでいられるのか。この極東の緊張感をまず認識するかしないかが、国家の存亡を決めると言っても過言ではない。国民はその戸締まりを選択したのだ。

 そこで首相・安倍晋三が主張する「積極的平和主義」に基づき、安保体制がどのように変わってゆくかだ。今後の展開は、まず車の両輪であるNSC法案と秘密保護法案を相前後して今国会で成立を図る。両法案は与野党対決の色彩を濃厚にしている。とりわけ秘密保護法案が対決の焦点となるが、与党は衆参で多数を占めており、多少の修正の可能性はあるにしても、成立の方向であろう。これを受けて年末にNSCが初仕事として国家安全保障戦略を策定し、この線に沿って防衛計画の大綱も閣議決定の運びとなる。いずれも集団的自衛権の行使に前向きの方針を示唆するものとなろう。そして来春には集団的自衛権の解釈改憲に踏み切り、夏には日米防衛協力のガイドラインを改訂して、国防体制を整える。まさに当たらず障らずであった外交安保体制改革の領域に踏み込むものであり、政策上の大転換である。本来なら解釈改憲によらず、改憲そのものを断行して取り組むべき問題であろうが、緊迫した極東情勢をかんがみればその時間的な余裕はない。したがって問題は、かつての安保論争に匹敵する論点を保守、革新政党に提供することになり、議論の高まりは避けられない。むしろ徹底的な議論を経たうえで、大転換を成し遂げることが民主主義国家としてふさわしいだろう。

 そこで、両法案の争点を分析して、必要不可欠との見地から反論を加える。まずNSC法案に対する反対意見としてよく出されるものが、米国のイラク戦争の誤判断だ。NSCが2003年にイラクに大量破壊兵器があるとして侵攻の理由の一つとしたが、実際にはなかったという前代未聞の大間違いである。しかしこれは反対のための反対の根拠になるものであって、本質を外している。イラク戦争の目的はテロの温床となる中東のヒトラーのフセイン体制をつぶし、民主主義国家を打ち立てることにあった。その目的は見事に達成されており、毒ガスや原爆があろうがなかろうが、大義は成し遂げられたのだ。「時の政権に耳障りの良い情報しか上がらない」との説があるが、だからこそ法案で情報の提出を義務づけたのである。そもそも最終判断するのは首相であり、政権に都合の良い情報かどうかなどは、首相としての判断力のイロハのイを試されることであり、NSCのせいにしてはいけない。この国は首相が誤判断すれば、すぐに「首相降ろし」が始まる国でもある。首相降ろしは「またも政局」と批判されるが、まさに日本的民主主義の核でもあるのだ。米NSCはこのイラク戦争の決定を初め、オサマ・ビン・ラディンの殺害など的確な判断を下している。

 秘密保護法案の成立は米、英などのNSCと連携をする上で必要不可欠である。これからの国家戦略は情報戦に相当のウエートがかかるのであり、その情報なしには国家戦略は成り立たない。日本のような大国が情報タダ漏れで良くこれまでやってこられた。まさに奇跡である。NSC担当官同志は直通電話を通じてすぐに電話で情報を交換する。総じてアメリカのCIA情報が頼りになるが、日本にだって情報がないわけではない。1983年のソ連戦闘機による大韓航空機撃墜の情報は、自衛隊が電波傍受で入手したものであり、米国にも伝えられた。時事通信のスクープであった。秘密保護法に関しては、罰則の強化で報道の自由、国民の知る権利が束縛されるという議論がある。もちろん体制側は情報を隠す本能があり、監視を怠るとすべてを隠しかねない。しかし報道の自由は法案で認めており、マスコミが力を削がれたわけではない。マスコミは従来通りスクープ合戦を展開すればよいのだ。圧力をかけるような政権は、よってたかって引きずり降ろせばよい。「官僚が萎縮して情報を出さない」という議論ももっともだが、それでもあらゆるテクニックを使って暴くのが記者根性というものだ。情けないのは「記者が萎縮する」という議論だ。こればかりは最近の偏差値重視教育で、点数ばかりが高くて採用された記者たちの弱点をさらけだしている。「萎縮するひまがあったら、特ダネ取ってこい」と言いたい。この程度の秘密保護法などで萎縮する記者は、法案があってもなくても萎縮するのだ。取材とはもともと体を張って行うものであると心得よ。

 秘密が5年ごとに延長され、30年たっても公開されない恐れがあるなどという議論があるが、これには疑問がある。なぜなら30年間も平和であり得たのは、その情報が秘密であったからでもある。そもそもこのテンポの速い時代に、30年前の情報を欲しがるのは、学者くらいしかいない。野党が主張しているように、秘密の範囲が不明確ということも確かだが、秘密の本質は時々刻々と変わることにある。1時間後には秘密にしても意味がないものもあれば、それこそ半世紀も公表しないほうが国家のためになる情報だってある。常時軽重が変わる秘密を定義する事の方がおかしい。国会議員に情報を提供せよという議論があるが、これまた噴飯物だ。国会議員ほど情報を漏らす人種はない。記者が秘密会のメモを頼むと「よしよし」と引きうけてくれるのが国会議員だ。共産党や社民党のように伝統的に外国の勢力と結びついている政党もある。外国への筒抜けの筒に秘密情報を教えてはならない。
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