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2013-10-02 07:04

消費増税の「賭け」は、安倍が勝つ

杉浦 正章  政治評論家
 賽は投げられた。ついに渋渋ながら首相・安倍晋三が消費増税に踏み切った。海外にも大きな反響を呼び、英ファイナンシャルタイムズ紙が「賭け」と分析すれば、AFP通信も「政治的ギャンブル」と報じた。国内でも、海外でも、アベノミクスが腰折れするか、乗り越えられるか、その瀬戸際であると見えるからだ。しかし、この賭けは、安倍が7対3で勝つだろう。なぜなら、追い風が吹いているからだ。10月15日からの臨時国会で野党は追及し切れまい。企業も、法人税減税を人参としてぶら下げられたら、協力せざるを得ない。しかし、ただでさえ不人気の増税だ。高止まりを続けてきた内閣支持率は、まず50%を割り、今後下落傾向に転ずるだろう。安倍の打ち出した経済対策は、来年度の消費税の収入5兆円と全く同額である。それも復興法人税の前倒し廃止や、公共事業が含まれ、将来的には法人税実効税率の引き下げも視野に入る。確かに一見すれば、個人の負担に依存する消費税を引き上げておいて、220兆円も内部留保を貯め込んでいる大企業を優遇する構図に見える。もちろん安倍の目的は、アベノミクスでデフレからの脱却を何が何でも成し遂げたいからに他ならない。最終的には、企業減税を給与に回して、消費能力を高め、物価を上昇させ、企業の収益をふやすという好循環を達成したいのだ。ところが「庶民の増税、大企業の減税」の構図は国民を感情的にさせ、野党がこれに乗ずる隙を作る。安倍は消費増税の予定通りの引き上げに難色を示し続けた結果、責任を一身に背負う構図での決断となった。

 先送りから実施への“翻意”に当たって、安倍は周辺に「野田の仕掛けたわなにはまった」と前首相・野田佳彦に対して見当違いの“逆恨み発言”をしているという。よほど先延ばしできなかったことが悔しかったに違いない。安倍は「増税を賃金に反映させなければ、安倍政権は終わる」と漏らすほど思いつめた上での決断だった。たしかに過去2回消費増税を断行した政権は、あえない最期を遂げている。竹下内閣はNHKの調査で支持率が7%まで下がり、つぶれた。橋本政権も各社の支持率が急落して20%台になり、結局は退陣を余儀なくされた。安倍は就任以来高支持率を維持し、9月は東京オリンピック招致成功もあって61.3%と60%台を回復している。しかし、支持率の順風、満帆はこれまでだろう。増税に加えて、大企業優遇措置は、説明しなければ理解されないから、言い訳めいて、政権にとって確実に不利に働く。支持率はまず当初は50%を割るだろう。それに加えて、不人気または国論を2分する政策がひしめいている。臨時国会での秘密保全法案や、年末の法人減税決断などがマイナスに作用する。集団的自衛権問題や憲法改正も国論を2分して、支持率にはマイナスに作用する。しかし高支持率の“貯金”があるから、低支持率には至らぬまま恐らく30~40%前後の中支持率を維持できる可能性が大きい。従って中期的には、支持率が竹下、橋本政権の例のように政権を直撃する可能性は少ない。

 一方、野党の動きはどうかと言えば、消費税とこれにつながる経済対策を追及する方向だが、野党第1党の民主党の腰が定まらない。代表・海江田万里は「消費税を上げる場合は、社会保障制度の充実が1丁目1番地だ、と何度も繰り返してきた。安倍晋三首相が進めている消費増税は、かなり話が違う」として追及の構えだ。確かに野党が追及するのに大企業優遇批判は通りやすい。しかし、一般大衆の感情論をそのまま政治の舞台に上げて追及しても、ポピュリズムとしては成り立つが、経済論議としてはすぐに論破されやすい。焦点の復興特別法人税の前倒し廃止にしても、安倍が25兆円の復興対策予算を崩さないと言っているのだから、批判しにくい。ましてや安倍は、民主党政権時代に17兆円だった復興予算を25兆円に増額しているのだから、民主党も後ろめたいだろう。最大のポイントは、民主党が消費増税そのものには賛成しているのであって、どうしても重箱の隅をつつく質問になる。維新も最終的には消費増税賛成に固まる流れだ。あとはみんなの党や共産党など弱小政党ばかりであり、雑魚が跳ねてもたいしたことにはならない。

 安倍の経済対策を成功させる鍵は、企業が握っている。法人減税を給与に回すかどうかが焦点だからだ。経済財政担当相・甘利明は「企業に強制はできないが、背中を押すことはできる」と述べた。甘利は政府、労働界、経済界でつくる「政労使会議」で経営側の理解を求める構えだ。また経済産業省は個別企業の賃金引き上げ状況を監視し、賃金アップにつなげていく方針だ。自民党も賃上げキャンペーンを全国で展開する。企業がどう出るかだが、経団連会長・米倉弘昌が「首相の英断」と発言する以上協力せざるを得まい。賃上げは、来年の春闘で結果が出ることだが、企業の業績は相当好転しており、給与引き上げの余力が生じてきている企業も多い。経団連など経済団体は、この際、悪名高き内部留保を、給与や設備投資に反映するよう働きかけるべき時であろう。過去にあったリーマンショックや山一証券の倒産などが、安倍の経済運営を直撃する可能性がないとは言えないが、総じて消費税の「賭け」は安倍の勝ちで終わるものとみられる。  
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