国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百家争鳴」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2013-07-29 16:40

北京が最も恐れる「QE縮小」宣言

田村 秀男  ジャーナリスト
 ワシントンでは7月上旬、米中戦略・経済対話が開かれた。筆者がもっとも注目したのは、米連邦準備制度理事会(FRB)がめざしている量的緩和(QE)の縮小について、中国の楼継偉財政相が、「(米国の)高い失業率を考えれば時期尚早」と内政干渉まがいの態度で臨み、「影響は米国のみにとどまらず、十分注意すべきだ」と厳しく注文した点である。おしつけがましい覇権国・米国顔負けの発言で、いかにも尊大で粗暴な「大国」中国らしい振る舞いだが、それほど中国側にはせっぱ詰まった事情があるとみてよい。

 2008年9月のリーマン・ショック後、08年8月に比べてどのくらい米FRBがドル資金供給残高(マネタリーベース)増やしたか、また中国人民銀行が人民元資金の供給量を反映する資産総額をドル換算で増やしたか、その人民銀行資産のうちドルを中心とする外国為替資産をドル換算でどのくらい増やしたか。人民銀行は米QEに合わせて資産を増やす、つまり人民元資金を発行し、国内の金融機関や金融市場に流し込んでいる。リーマン後、北京は大規模な財政出動に踏み切る一方で、人民銀行が国有商業銀行などに巨額の資金を供給し、融資を一挙に3倍も増やした。その金融緩和策を可能にしたのが流入する外為資金であり、外為資金の供給源となってきたのがQEなのである。人民銀行の外為資産増加額はFRBのマネタリーベース増加額の8割にのぼる。中国の金融はドルに全面依存している。

 その金融モデルが今、崩壊の危機にある。流入するドルを信用創造の源として不動産投資や増産に邁進した胡錦濤前党総書記・国家主席時代は10%前後の高度成長を続けたが、不動産バブルは膨張し、過剰生産、過剰在庫は野放しになっている。役得にありつく党官僚はバブルや過剰生産から創出される見かけ上の利益の多くをフトコロにする。取り締まりは緩く、工場や発電所などからは有害物質が除去されないままガスや水が排出される。

 このまま米国がドルの増刷をやめると、中国人民銀行は人民元札を刷れなくなる。すると、市中銀行による融資は止まり、不動産バブルは本格的に崩壊しよう。くだんの「影の銀行」が集めるカネもしょせんは企業、個人の過剰資金であり、高利回りの運用先は主に不動産市場だから、バブル崩壊で高利回り商品は蒸発してなくなる。農民から土地を強制収容して不動産開発に邁進してきた地方政府は債務返済不能に陥り、大手の国有商業銀行は一挙に総額で100兆円規模の不良債権を抱えよう。結末は、金融市場崩壊では済まない。共産党体制の崩壊だと、北京指導部は恐れているのだろう。だからワシントンに「ドルを刷れ」と強要する。バーナンキ議長はQEの継続を口にしているが、年内には、北京が最も恐れる「QE縮小」宣言の日がやってくる。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百家争鳴』から他のe-論壇『百花斉放』または『議論百出』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
東アジア共同体評議会