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2013-01-31 17:00

(連載)破綻した日銀理論(1)

田村 秀男  ジャーナリスト
 日銀は安倍晋三首相の強い要請を受けて、「2%のインフレ目標」導入について検討中だ。しかし、安倍首相と白川方明(まさあき)日銀総裁の間にはインフレ目標やそれを達成するための金融政策をめぐって重大な齟齬がある。安倍首相は日銀が脱デフレ、円高是正はもとより、雇用拡大にも責任があるとみているのに対し、白川総裁はひたすら金融政策の限界を強調し、インフレ目標達成に日銀が縛られるのを極度に警戒している。どちらが正しいのか。

 白川氏は昨年12月28日、日経新聞とのインタビューで、脱デフレについて、「日銀の生活者調査では国民の8割以上が物価上昇をどちらかというと望ましくないと回答している。一方で同じ国民がデフレからの脱却を望んでいる。国民が求めるデフレ脱却とは景気を良くしてほしいということと同義で、雇用が確保されて賃金も上昇し、企業収益も増えてその結果として物価も上がっていくという経済成長を実現することだ」と述べている。

 安倍首相は、今月9日に開かれた経済財政諮問会議で白川氏の目の前で、「10年以上デフレが続き、相当のことをしないとマインドが変えられない。これまでと次元の違う政策によってインフレ期待を起こし、成長を高めていかないと税収が上がらず財政再建もできない」と述べた。10日の日経とのインタビューでは、「日銀の金融政策で雇用の最大化に努めるべき」とも強調した。両者の違いは物価や実体経済に対する金融政策の役割の評価にある。経済学上、デフレとは物価が全般的に下がり続けるという予想が経済社会に定着している状態であり、逆に物価が全般的に上がり続けるという予想が広がっている場合がインフレである。

 安倍首相はそれをきちんと踏まえているが、白川氏はそれを無視して、「物価が下がることはよいし、上がることを望まない」という主婦感覚の答えに置き換えている。主婦が値上がりを嫌がるのは当たり前である。もっとも、国民はバカではない。「国民がデフレからの脱却を望んでいる」と答えるのは、デフレ下では収入が物価以上に下がるし、新卒の息子や娘が非正規の雇用の場しかないことを実感として知っているからである。白川氏はそこで、論理を飛躍させる。まず景気をよくしろ、そうして需要が増えて物価が上がれば、めでたく「脱デフレ」だと。景気をよくするためには、金融よりも政府の政策が脱デフレ実現のためには大事ですよ、とささやくのである。(つづく)

 
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