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2012-10-29 10:04

日本外交の足を引っ張る石原挑発外交

若林 洋介  学習塾経営
 今年4月、石原慎太郎都知事が「尖閣購入宣言」を米国のワシントンで発したことは日本国民にとっても青天の霹靂(へきれき)であった。これは借地権者としての立場から尖閣諸島の国家管理を継続し、実効支配を粛々と続けてゆくつもりであった日本政府の外交政策に根本的転換を求めるものであった。10月19日の「朝まで生テレビ」で、中国人企業家の宋文州氏は、「石原都知事のワシントン発の『尖閣購入宣言』は、中国のテレビ・ニュースでも大きくとりあげられ、全国民に尖閣領有問題の存在を大きく印象付けた」と述べていた。4月19日の「人民網」(「人民日報」紙インターネット版)には、「石原の計画が東京都議会を通過した場合、釣魚島問題をめぐる中日の対立が激化し、中日関係にも重大な影響をもたらすだろう。中国は報復措置を講じて、東京都への圧力を強めることができる」(国際関係学院・楊伯江氏)との記載があり、すでに「報復措置」が示唆されている。

 その後も十数億円の募金が集まるなどして、石原発言はより過激になっていった。5月25日の定例記者会見では、「こんなことはな、国がやらなきゃいけないんだ。ところがだな、外務省の腰抜け役人どもが野放図なことをしてきたんですよ」と日本政府(外務省)に対する公然とした批判を興奮気味で語るに到った。その後、6月には石原発言を批判した丹羽中国駐在大使が事実上更迭されるという事件が起き、一方、石原都知事は、尖閣諸島の上陸調査決行を発表した。これらの尖閣領有をめぐる石原都知事の言動及び日本政府の対応は、逐一中国のテレビ・ニュースで放映されることになった。また7月7日になると日本政府による「尖閣国有化」が閣議決定され、それに反発する抗議デモ活動が、西海岸のロサンゼルスから東海岸のニューヨークまで、米国在住の中国系米国人によって各地で組織された。

 これに対し、石原都知事は7月27日付けの「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙に「東京都から米国民の方々へ」との見出しで広告を出し、東京都による尖閣諸島購入について米国民に理解と支持を求めた。つまりは、どんどん尖閣領有問題の国際紛争化が促進されていったのである。宋文州氏によると、このような一連の石原都知事の言動は、中国の全国民に尖閣領有権問題の存在を知らしめ、9月の常軌を逸した空前の反日デモの大きな要因になったとのことである。もちろん、尖閣諸島は日本の領土なのであるから、その前提に立てば、だれが売買しようが、それを中国からとやかく言われる筋合いはない。また、反日デモには、中国政府のヤラセの部分もあり、さらに遡れば1990年代の江沢民総書記時代に国を挙げた国民教育として反日愛国教育をおこなった結果であることも間違いない。

 だから、今年4月の石原都知事のワシントン発「尖閣購入宣言」のみをもって、尖閣領有権問題の国際紛争化の元凶であり、日中関係悪化の原因であるということはできない。しかし、それにしても、石原都知事のワシントン発「尖閣購入宣言」によって、これまでの日本政府の「尖閣領有権問題は存在しない」という実効支配を前提とした政策が、きわめて困難な状況に追い込まれるに到ったことは否定できないであろう。
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