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2012-09-09 10:23

看過できない民主党の「原発ゼロ」提言

高峰 康修  日本国際フォーラム客員主任研究員
 民主党のエネルギー環境調査会が、「2030年代に原発稼働をゼロとするよう、あらゆる政策資源を投入する」ことを謳った政策提言をまとめた。これは到底看過できない無責任な提言である。当初は、期限を明示しない形で「原発ゼロ」の目標を掲げるという内容だったが、反原発派のゴリ押しで「2030年代」との文言が入れられた。まず、エネルギー政策という国家の存亡にもかかわるような重要事項を、このように軽々に取り扱う姿勢自体が問題である。もちろん、より重大なのは、手続き論ではなくてその中身である。原発をゼロにすれば、電気料金が現在の約2倍に跳ね上げると試算されている。これが経済に影響を与えないわけがない。産業の空洞化が急加速し、膨大な雇用が失われることは明白である。

 世界経済フォーラムが5日に発表した世界競争力ランキングでは、日本の総合順位は前年の9位から10位に一つ下がったが、その要因の一つは、原発の運転停止により、電力供給の項目が17位から36位に下がったことである。その一方で、同ランキングは、発明性、製造プロセスの先進性、国内サプライヤー数などといった、製造業の強さの指標となる各項目で日本を首位と評価している。しかし、良質、安価、安定的な電力供給(これは原発によって下支えされている)が失われれば、こうした強さも全く意味がなくなる。原子力の平和利用は、国際的な取り組みであって、国際的な文脈を無視して議論することはできない。ロシアのウラジオストクで開かれているAPECの首脳宣言でも、原子力の安全かつ確実な利用を支持するとして、知識の共有、核の平和利用についての加盟国・地域間での協力強化などが盛り込まれる。さらに、先日公表された「第3次アーミテージ=ナイ・レポート」では、日本の原発維持と、日米協力が提言されている。

 こうした中で、我が国だけが潮流に逆らうことは、外交力の面からも大いにマイナスとなる。民主党の提言では、国際機関や米国に丁寧に説明する、と言っているが、「丁寧に説明」などというのは国内でしか通用しない政治用語である。一方、経済産業省などは、期限を明示して原発ゼロを目標とすれば、青森県六ケ所村に保管されている使用済み核燃料が各原発に返還され、核燃料サイクルが破綻し、即時原発ゼロにつながりかねないと指摘していた。そして、実際にそういう動きが出てきている。これも極めて憂慮すべきことである。ただ、期限を明示せずに遠い将来のこととして原発ゼロの目標を立てればよいのかといえば、それもやはりやるべきではないと思う。原発をいずれゼロにする、と言ってしまえば、原子力関連技術者は育たなくなり、原子力技術は加速度的に低下していく虞がある。そうなれば、原発の安全性が低下するとともに、福島第一原発の廃炉にも大きく影響することになろう。

 また、期限を明示しない原発ゼロ目標というのは、原発を完全に代替できるエネルギーの見通しが全く立っていない以上、国のエネルギー政策を宙ぶらりんの状態に置くことになる。エネルギー政策は国家戦略の柱の一つであるから、そのようなことがあってはならない。やはり、「原発ゼロ」という目標自体、少なくとも現段階では不適切と言わざるを得ない。政府は、民主党の提言を拒否するだけでなく、「原発ゼロ」そのものをエネルギー政策に盛り込んではならない。
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