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2012-08-29 07:48

(連載)海上保安庁の「ビデオ公開」を嗤う(1)

鹿又 勝己  会社員
 海上保安庁が8月15日に発生した香港人活動家の領海侵犯・不法上陸の模様を撮影したビデオをようやく8月27日になって公開した。8月28日付日本経済新聞の記事はこの公開について、「・・・上陸を阻止しようとする巡視船に活動家が激しく抵抗する様子など、生々しい攻防が浮き彫りになった。しかし、・・・すでに事件から10日以上経過しており、情報開示のあり方が問題になっている」などと書いている。日経の指摘を待つまでもなく、事件発生から12日もたってから、やっと事件のビデオを公開するとは、まさにお役所仕事そのものである。海上保安庁は組織全体が「共同体」化しているとしか言いようがない。

 ここで私の言う組織の「共同体」化とは何か。岸田秀先生の「ものぐさ精神分析」の表現を援用させていただくと、こういうことかな。(1)本来の外部目的達成のための組織(=機能体)から仲間内の厚生の実現を目的とする組織への転化、(2)身内の論理と庇い合いを最優先に物事に対応するため、外的現実に対処する能力を欠くにいたる、そして(3)結果的に社会的衰退を招く組織と化す。

 これは、現下の日本全般を覆っている衰退への予感と合致する。日経によると、海上保安庁はビデオ公開について「捜査が終結していることや、映像の公開を求める声が高まっていること、海保の警備の実施が適正であることを国民に広く理解してもらう必要があると判断した」と説明している。そして「今後の領海警備業務に支障が出ないよう、映像は編集、削除している」とも。ここに、「共同体」化を物語る「組織論理」が端的に示されている。

 (1)香港人活動家の領海侵犯や不法上陸を阻止できなかった事実はさておいて、「捜査は終結している」から(自己都合により)公開するという。(2)不逞の輩の犯罪行為を、客観的事実に即して国際的に周知し、国境の安全と領土保全に資するという。海上保安庁は、その本来の機能に即してではなく、「映像の公開を求める声が高まっている」から(自己保身のため)公開するというのだ。(3)ただし、公開の範囲の決定には、「今後の領海警備業務に支障が出ないよう」という組織論理が優先されている。(4)自分たちが撮った映像が散々ネット上で、またTV画面上で流布してしまってから公開するというのは、情報戦での決定的敗北を反省しておらず、自己中心である。(5)「海保の警備の実施が適正であることを広く理解してもらう必要」があるというのは、対象があくまで日本国民であると考えており、主観主義である。(6)自分たちの業務の失敗がどのような不利益を国家全体にもたらしたか、に無自覚・無責任である。(つづく)
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