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2012-08-23 14:45

(連載)ダマスカス戦線異常なし(2)

加藤 朗  桜美林大学教授
 また強制退去を受けて空港へ護送される途中、車窓からは、2カ所で装甲車に乗った兵士が道路を監視しているのを見ただけである。シリア到着時にタクシーで市内に向かったが、その時には兵士の姿や装甲車など全く見なかった。また強制退去させられた時の空港の様子も普通の空港と全く変わらなかった。空港に銃を構えた兵士がいるわけでもない。ただ、日本の地方空港並の規模でしかなく、また乗降客の数も少ないために、わびしい雰囲気は拭えなかった。しかし、便数は少ないものの航空機は24時間態勢できちんと運行されていた。私が乗ったエティハド航空機も毎日運行されていた。

 また空港の待合室にもどこにでもある日常風景があった。家族ずれが多く、小さな子供たちがロビーを走り回っていた。ひょっとするとシリアを脱出するためかと思われるかもしれない。しかし、アブダビからシリアに向かうときにも家族ずれが何組もいたことを考えれば、必ずしもシリア脱出とは言えないのではないか。シリア情勢に対するメディアの報道は、だれが取材許可を出すかによって全く異なる。現在、欧米メディアを受け入れているのは反政府勢力側である。日本も欧米メディアの一貫として反政府勢力側からの報道姿勢をとったのであろう。そうすると、アサド政権は今にも崩壊、瓦解しそうなニュアンスで伝えられ事が多くなる。一方で、アサド政権側からの報道にある、恐らくロシアや中国しか伝えられないのであろうが、反政府勢力はアルカイダのようなテロリストや欧米など外部勢力の支援を受けているといったニュースは全く外部に伝わってこない。

 戦時下の報道で気をつけなければいけないのは、メディアがいかなる便宜供与をいかなる勢力から受けているかを吟味することである。そうでなければ一方的な報道によって判断を誤る原因となる。私が紛争地に入る際に、こうしたバイアスをさけるために一貫して実行しているのが、ツーリスト・ビザで入国できるかどうかである。今回在日シリア大使館はツーリスト・ビザを発給してくれた。またスパイ容疑でつかまったものの、最終的にツーリストとして釈放してくれたシリア政権は、その一事をもってしても、まだ安定しているといえる。

 別にアサド政権の肩を持つわけではない。それどころか、その人権侵害政策には満腔の怒りを覚えている。しかし、客観的な事実と主観的な思いとは明確に区別しなければならない。アサド政権が転覆するとするなら、また反政府勢力がアサド政権を打倒することができるとするなら、やはりダマスカスの攻防戦にかかっていると思われる。だが、今のところ「ダマスカス戦線、異常なし」である。(おわり)
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