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2012-07-26 17:14

吉田重信、山下英次両氏の中国論に危惧を感ずる

中山 太郎  団体非常勤職員
 7月25日の「百花斉放」欄への吉田重信氏の投稿「丹羽駐中国大使更迭の意味合いー日本外交の挫折」および7月26日の本欄への山下英次氏の投稿「真の意味での日本の独立を改めて考えさせる書」の論述を見て考えるところを述べる。お二人の文章は、論理も筋が通り、端麗なきっちりした文章だ。過去のすぐれた経歴をうかがわせる。しかし、「狸と狐の化かしあい」のような、現実世界の中で考えると、ひ弱な、独りよがりの、実際にはそぐわない面も感じる。先ず、吉田氏についてだが、「丹羽大使を外務省は擁護すべきだった」は、通常なら、トップの人間を引きずり落とすのは極めて見苦しい、天に唾するようなものだ。しかし、同大使が大使館の内外で四面楚歌だったことを考えれば、致し方ないことだ。民間時代の一時期にすぐれた実業人としての業績を残された丹羽氏を知るだけに、安全保障問題を無視した、きわめて不適切な人事をした民主党政権の中国大使人事の甘さが悔やまれる。

 爪に火をともして清貧の中で働く部下の大使館員に「(自分は)民間時代の何十分の一の大使手当てで働いている」と発言したと伝えられるが、許されるべき発言ではない。真の外交官の多くは、今でも持ち出しが多い。どんな理由があるにせよ、夫人を伴わずに赴任したのは大使欠格だ。外交界は、今騒がれる大津の中学校より閉鎖社会だ。そこで生きる者に取り、夫人の存在は重要不可欠である。国の内外をとわずそうである。日米開戦直前まで10年間にわたり、駐日大使として戦争の勃発阻止に動いたグルー米大使は、その著書の中で吉田茂夫人だった雪子さんの公私にわたる渾身の諸努力を、感銘をこめて書いておられる。次に、山下氏についてであるが、氏のあげる西郷隆盛その他の逸材に敬意を払うにやぶさかではない。しかし、「興亜」イコール「独立自主」への道と言うのは、短絡過ぎないか?山下氏は、ドイツを見習えと言っておられる。しかし、欧州では、千年以上の領土、宗教、王位継承などをめぐる血みどろの戦いを経て、第1次、第2次両大戦を戦ったフランスなどの周辺国にも深い反省があって、今の状況が作られている。日本の周囲には、そういう状況はない。日本は、笑顔の後ろに常に棍棒を用意しなければならないのだ。

 今持て囃される、途上国の台頭は、戦前のドイツの台頭を思わせる。そうした国と同盟を結び、米英との対決を選んだ戦前の道は、よくよく考えるべきだ。今振り返れば、上海事変で日本が、莫大な損害を蒙った背後には、ドイツの中国への支援があったことは、何たる皮肉であろうか。交渉会議でやりあい、自宅の宴会の主人役を果たそうと帰宅すると、政府機関派遣のコック、雇い人たちが、突如引き上げられていたなどの、悪夢の世界を乗り越えず、「興亜」を叫ぶのは危険だ。世界は、一刻の予断も許さない事態を迎えている。例えば、北極ルートの出現だ。「スエズ経由の船便の6割の燃料費で極東と西欧を結ぶ」と注目されている。主要当事国の米、露、カナダ、デンマークなどに加え、正規オブザーバーには、英、独、仏、西、ポルトガル、ポーランドと西側各国もオンパレードだ。日本は、90年代に申し込んだが、いまだ非常勤のオブザーバーだ。シンガポール、韓国と並び、中国もこのグループに入り込んだ。

 後から登場した中国は、しかしながら、既に着々と手を打っている。温家宝総理は、アイスランドまで足を伸ばしている。「アイスランドは中国企業の土地購入を拒否した」と日本では報道されているが、実態を知る者によれば、うまく貸与を受けることになっている。デンマークには、中国ナンバー1の胡錦涛総書記がわざわざ足を延ばし、数十億ドルの借款を供与している。明らかに、北極ルートの良港確保への布石だ。航行自由の原則を日本だけが叫んでいても、世界で受け入れられるであろうか?これに驚いている私に、消息筋の人間は「世界で一番石油埋蔵量の多い南米ベネズエラにも、中国人は既に数十万人来ている」と述べた。ドイツ企業が、中国でひそかに優遇措置を受けていることは、よく知られている。EUから中国への武器輸出の解禁は、目前の状況だ。財政難のEUのたどる道は、日本にとって対岸の火事ではない。
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