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2012-07-09 09:44

(連載)官邸前原発再稼働反対デモに感じた違和感(2)

鈴木 一人  北海道大学大学院法学研究科教授
 というのも、関西の人たちは、関西広域連合という民主的に選ばれた代表によって構成される会議において、起こるかもしれない電力不足のリスクを回避するために、大飯原発の再稼働を容認するという決定をしているからである。もちろん、最終的な決定は政府でなされているが、その決定に至るまでの重要な要素して、地元、つまり原発立地自治体である福井県と、消費地である関西広域連合が「民主的に」決定したことを、なぜ大飯原発のリスクの引き受け手でもなく、電力不足のリスクの引き受け手でもない非関西居住者の人たちが覆せるのか、ということが理解できなかった。確かに、最終的な決定をしたのは政府であり、野田総理は「私の責任において」再稼働すると言っているのだから、当然、再稼働を止めることができるのは野田総理ということになる。なので、大飯原発の再稼働に反対する人は総理に働きかけるというロジックは成立する。

 しかし、それならば、なぜ関西広域連合で再稼働を容認した時に、同じように大阪市庁舎の前でデモをやらなかったのか。私が知らないだけかもしれないが、少なくとも、もしデモが行われたとしても今回の官邸前デモ程の規模ではなかったことは確かだろう。また、関西広域連合で大飯原発の再稼働を容認した後の大阪府の世論調査では、再稼働の決定に賛成する人が49%にのぼり、反対の18%を大きく上回っている ( 毎日新聞2012年6月5日 ) 。この世論調査はあくまでも大阪府の住民が対象であるが、それにしても、関西に住んでいる人たちが再稼働に賛成したという傾向を示すものであることは間違いない。なぜ関西に住む人が賛成していることを、そして民主的な手続きを経て選ばれた人たちが決めたこと(関西広域連合での決定が制度的な正当性を持つかどうかは別として)を、リスクの引き受け手でない人たちが決めることができるのだろうか、という疑問はいまだに解消されていない。

 この違和感を考えていた時、何かに似ていると思ったのが、北九州における震災瓦礫の受け入れに反対する運動であった。こちらの方は規模は小さかったが、様々なトラブルを起こしたこともあり、かなり知られることとなった。この時の論点は、(1)放射性物質を含んでいるとは思えない、震災瓦礫をあたかも放射性物質の塊のように扱ったことに対する問題、(2)北九州市議会も民主的な手続きを経て承認した瓦礫の受け入れを否定することの是非、(3)瓦礫を運搬する業者を止めようとする手段の是非、(4)逮捕者を含め、運動に加わった人が北九州の人たちではなかったこと、といったことであった。このうち、(1)と(3)については、官邸前デモとは一致しないが、(2)と(4)については、官邸前デモと共通する問題なのではないか、と考えている。あの時に感じた違和感(それは(1)に対しても(3)に対しても感じていたが)は、やはり民主的な手続きを経て、当事者が合意したことを、当事者でない人たちが反対することに対するものであった。その違和感を今回の官邸前デモでも感じている。

 民主主義とは、本来、当事者が自らのことを自らで決めることができる仕組みであるべきである。イギリスの名誉革命も、アメリカの独立戦争も、フランス革命も、当事者である人々が、自己決定権を得るために戦い、勝ち取ったものだと認識している。その自己決定権を奪うことは、どのような方法であれ、非民主的な行為のように思えるのだ。独裁政権が非民主的なのは、当事者である市民が決定に参加することができず、特定の権力者だけが決定に参加できるという仕組みだから問題なのだ。形式的な民主主義(北朝鮮にだって選挙はある)が民主主義的と思えないのは、それが自己決定につながらないからである。自らの運命を自らが決定することが民主主義の本義だとするならば、関西広域連合で決定したこと、福井県が決定したこと、大飯町が決定したことを尊重すべきなのではないだろうか。もちろん、彼らは選挙の争点として原発再稼働を掲げたわけではない。しかし、現代の間接民主制の仕組みである限り、民主的に選ばれた為政者が判断したことは、民主的な決定と言ってよいだろう。そう考えれば、やはり、当事者たる関西広域連合、福井県、大飯町の決定を尊重するべきなのだと考える。それを当事者ではない人たちが介入し、その結果生まれるかもしれない電力不足のリスクを引き受けないということは、やはりおかしな感じがするのである。(おわり)
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