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2012-06-25 17:52

(連載)事故調乱立は民主主義の証(1)

鈴木 一人  北海道大学大学院法学研究科教授
 6月21日のテレビ朝日系列「報道ステーション」で、東京電力の社内事故調査の報告書を受けて、コメンテーターの三浦氏が、政府、国会、東電、民間事故調の四つを挙げ、事故調が乱立気味であり、真実が何かわからない、という趣旨の発言をしていた。また、キャスターの古舘氏もそれに同意するコメントをしていた。この発言を聞いたとき、さすがに恐ろしい気分になった。元々朝日新聞の論説委員であり、自身がジャーナリストである三浦氏が、「真実は一つであり、事故調査は一元化するべき」と考えているようであれば、それはジャーナリストとしての自殺と言わざるを得ない。なぜなら、彼自身が所属する朝日新聞も含め、新聞は全国紙として5紙(読売、朝日、毎日、産経、日経)があり、彼自身が出演しているテレビ局も民放5社(日テレ、TBS、フジ、テレ朝、テレ東)とNHKがある。もし世の中に真実が一つしかなく、それを報道する組織も一つであればよい、というのであれば、日本にこれだけの新聞社もテレビ局も必要ないはずである。

 世の中に真実が一つであり、故に報道機関も一つであればよいと考えている国はあるし、かつてもあった。有名なところでは「プラウダ(真実)」という名の新聞を唯一の公的な報道として認めていたソ連や、現在でも「労働新聞」のみを公的な新聞としている北朝鮮などは代表的なケースであろう。つまり、三浦氏がいう「真実は一つ、事故調は一つ」という考え方は、全体主義のそれと全く変わりがない。そのことに気が付かず、平気で数百万人は視聴すると思われるニュース番組で発言してしまうことの愚を考えてほしい。

 ただ、彼の言いたいことをやや好意的に解釈するとすれば、「現在の事故調はたくさんあるが、どれも同じようなことばかりをやっていて新味がない。そんなことであれば事故調など複数いらない」という発言としてとることもできる(かなり無理はあるが)。私自身が民間事故調に関わったから、というわけではないが、国会事故調が東電の撤退問題や官邸の介入に関して強い関心を持つのも、また、今日発表された東電の報告書でこの問題に対する反論(ないしは言い訳)めいた記述が出てきたのも、ある意味では民間事故調が福島原発事故の背景となった政治的、歴史的、構造的要因に切り込む報告書を出したからであり、そこで掲げられた論点を受けて、複数の事故調がそれぞれに意見を出した結果、こうした「横並び」のような状況を生んでしまったのではないかと考えている。

 もちろん、ここで取り上げられている論点はいずれも事故を理解する上で重要なポイントであり、それぞれの事故調が独自の調査と分析をすべきものだろうと思う。しかし、それぞれの事故調は異なった目的やミッションを担っており、何も民間事故調と同じ論点で議論をする必要はない。国会事故調は、その設置法にも書かれている通り、事故の真相を究明し、今後の原子力行政や原子力法規制に向けての提言をすることが目的である。であるならば、事故の真相究明は最終的に政策や立法の提言に結び付くものでなければならない。東電の撤退問題や官邸の介入は、確かにその後の原子力規制のあり方や原子力災害時の体制を考える上で重要な論点ではあるが、本当にそれだけが問題なのか、と言われるとそうではないように思う。その意味で、国会事故調が何を目指して調査をしているのか、今一つ明確ではない点が気になる。(つづく)
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