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2012-06-22 06:35

「小沢新党」は、解散への流れを加速

杉浦 正章  政治評論家
 まるでドイツの民間伝承のハーメルンの笛吹き男だ。街への復讐のため男が子供たちをさらって、洞窟に内側から閉じ込め、男も子供たちも二度と戻らなかったという。民主党元代表・小沢一郎はついにチルドレンを“さらって、”展望なき新党結成に踏み切らざるを得ない状況に追い込まれた。背景には小沢の大誤算がある。首相・野田佳彦がここまで「信念を持って」突っ走るとは思ってもいなかったのだ。しょせんはうたかたのごとく消滅する「小沢新党」だが、政局へのインパクトだけは残すだろう。それは、党分裂によって、野田が自民党の“解散攻勢”を避けがたい状況に置かれると言うことだ。あまりに「展望無き行動」の故か、いまだに永田町には「小沢は反対するが、党にとどまる方法を模索している」と論評する向きがあるが、甘い。小沢は踏み切ったようにしか見えない。その証拠に49人が集まった6月21日午後の小沢グループの会合で、チルドレンら一人一人に面会して、離党の意思を確認し、離党届に署名をさせている。既に党名まで検討されており、「新政党」が候補に挙がっているという。約50人が署名しており、参院でも10人程度の参加が見込まれているという。ルーピー鳩山由紀夫ですら「新党には同調することは出来ない」と怖じ気づくほどの無謀さだ。

 同日の幹事長・輿石東との会談も20分で終わっている。輿石なら、「反対しても除名せず」で裏の合意をやりかねないが、今度ばかりはそれが出来たようには見えない。小沢の誤算は、輿石を信用し切っていたことだ。側近輿石が野田を“いなす”ことが出来ると思っていたのだ。当初、輿石は、小沢の思惑通りに消費増税法案の継続審議と国会の超大幅延長を軸に事を運び、「消費税つぶし」は順調にいくように見えた。ところが、1日の会談で野田が「腰石切り」まで踏み込みかねない勢いであることが分かり、急速にしぼんだ。そこから野田の攻勢が始まり、内閣改造で障害を除去して、自民、公明との3党合意に突き進んだ。最終場面では、野田は自民党総裁・谷垣禎一はもちろん、自民党長老や実力者に電話をかけまくり、「輿石越え」で話しをまとめたのだ。小沢は、野田がここまでとことんやるとは思ってもいなかったに違いない。近ごろまれな身を捨てた「信念の政治」が展開されたことは、「駆け引きと取引き」だけで生きてきた小沢にとっては、まさに“想定外”の出来事であったのだろう。こうして小沢は「出ては壊し、戻っては壊し」の“悪い病気”をぶり返さざるを得ない羽目に陥ったのだ。展望は開けるかと言えば、全く開けない。ただ54人以上の離党に持ち込めれば、お得意の「政局」に“関与”はできると踏んだに違いない。なぜなら民主党を過半数割れの「少数与党」に追い込めるからだ。

 しかし、小沢の発言を聞く度に永田町では“失笑”が生じていることを知らないのだろうか。「刑事被告人が正義とは恐れ入る」(自民党幹部)というのだ。確かに21日の小沢の発言を聞けば、まさに総選挙を意識した国民向けの大言壮語に満ちている。「大増税だけが先行することは、国民の皆様への背信行為」「我々の主張は大義であり、正義であると確信する」と述べたのだ。陸山会裁判で4億円ものカネの出し入れを「知らない」で押し通し、裁判官からあきれられた刑事被告人が「国民への背信」でなくて何だろうか。人のふみ行うべき重大な道儀を日本国では「大義」といい、「正義」とは人が行うべき正しい道をいう。小沢の辞書には別の定義があるのだろうか。これが、総選挙で通用すると思ったら大間違いだ。小沢がついた“うその固まり”がマニフェストであり、国民の知的レベルは小沢が思っているほど低くないのだ。小沢は「消費税反対と反原発で選挙に勝てる」と漏らしているというが、国民は2度もだまされないのだ。

 小沢の目指すところは、まずチルドレンを冒頭述べた「洞窟」に閉じ込めることにある。相変わらずの数の論理で54人以上を集めれば政局を左右することが出来ると踏んでいるのだ。しかし、動かした政局は小沢の解散回避の思惑とは逆に流れる可能性が高い。その意味で自民党は小沢の分裂を大歓迎するだろう。もともと谷垣の狙いは消費増税法案への賛成で民主党の分裂を誘うところにあったのだから、まさに思うつぼにはまったことになる。谷垣は民主党分裂を最大限利用して、参院の審議を激動含みに展開させて、ことを解散へと運ぼうとするだろう。だが、小沢と組むことはない。したがって、小沢の狙う「あわよくば分裂による己の復活」はまず100%ありえない。なぜなら、まず小沢が目の敵とする消費増税法案は成立するだろう。野田は小沢が内閣不信任案成立による揺さぶりをかけようとしても、谷垣との「話し合い解散」の道を選択する可能性の方が大きいからだ。また選挙前の与野党大連立は極めて難しいが、政策ごとの部分連合的な動きが台頭する可能性もある。そうなれば消費増税法案だけでなく、赤字国債発行法案や定数是法案も成立する可能性が大きい。解散を前提にすれば、自民、公明両党もこれに応ずる可能性があるのだ。要するに、民・自・公3党合意路線は「小沢排除」が根底にあり、小沢が党分裂・新党戦術でこれに割り込める可能性はないと言ってよい。かくして笛吹き男とチルドレンは洞窟に閉じ込められたまま、日の目を見られないことになりそうなのである。  
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