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2012-06-13 06:55

自民の「基本法」は解散への“劇薬”だ

杉浦 正章  政治評論家
 どんどん進展する税と社会保障の一体化をめぐる協議の先に何があるかといえば、「政策」に隠されている「政局」への“からくり仕掛け”だ。その秘策が、最低保障年金創設の撤回などを盛った自民党の「社会保障制度改革基本法案」だ。民主党が受け入れれば、マニフェスト放棄が法文化されることになる。その意味は、民主党が選挙公約の撤回を公認し、自民党の「撤回なら、国民に信を問え」という主張の根拠となる。これを武器に自民党は延長国会で徹底的に追及して、解散に追い込もうとしているのだ。やはり自民党は一筋縄ではいかない。誰も気付かなかったが、解散への“劇薬”を潜り込ませてあったのだ。修正協議は、民主党が「総合こども園」創設を撤回、「認定こども園」を拡充する自公の主張を受け入れるなど、次々に大転換を図っており、社会保障部分の合意がおおむね達成された。この結果、自民党が強硬に主張する最低保障年金と後期高齢者医療制度廃止の撤回など、マニフェスト部分に焦点が絞られてきた。修正協議を前に急に浮上した自民党の基本法案の“核心”は、民主党がマニフェストで掲げる最低保障年金制度創設や後期高齢者医療制度廃止を否定する内容である。自民党は6月12日も役員会で基本法案を野田政権が受け入れることが合意の前提との方針を再確認した。

 なぜ自民党が両制度の撤回に固執するかと言えば、マニフェストの1丁目1番地であるからだ。とりわけ最低保障年金は、民主党が総選挙前に「政権を取ればすぐに7万円を支給する」と訴えて、圧勝した経緯がある。自民党としては、恨み骨髄に徹する問題でもあるのだ。それが今「40年先の話」(副総理・岡田克也)と言っても、聞き耳持たぬのが本音だ。自民党は民主党のマニフェスト破たんと放棄を法案で担保しようとしていたのだ。その証拠に、自民党総裁・谷垣禎一は「対案を民主党がのめば解散だ」と周辺に漏らしている。谷垣は「政策の中身とけじめは一体だ。自民党の提案している社会保障制度改革基本法案を民主党がのめば、必然的に解散の道筋を歩まねばならない」と述べているという。つまり、基本法案成立が、マニフェスト破たんを法的に確認したことになり、消費増税法案の成立即衆院解散につながる「理論的支柱」となるわけである。谷垣は12日の役員会で「基本法案を民主党が受け入れるか、受け入れないのかが合意のポイントだ。ボールは政権与党にある」と述べている。

 野田は表向き撤回はできないという姿勢を見せているが、妥協点を探っているのが実情だ。後期高齢者医療制度廃止法案の今国会提出の断念や、両制度の「国民会議」への棚上げなどで、自民党に譲歩する方針だ。自民党の基本法案を民主、自民、公明3党で成立させることも考えているようだ。決着は党首会談にもつれ込む可能性もある。野田の譲歩の姿勢の背景には、解散権は自分にあるとする自信があるに違いない。たとえ自民党が両制度の否定を法制化しても、首相の持つ解散権は「政治の極致」ともいえる政治判断マターである。最終的には、法制化による“理論的根拠”には左右されないという判断がある。だから、譲歩にも自信があるのだろう。たしかにその判断でも法案の衆院通過は達成できるかも知れない。しかし、問題は参院にある。谷垣の狙いは解散・総選挙の参院への“継続審議”にあるのだ。その種をあらかじめまいておこうというのが基本法だ。自公両党は参院では、マニフェストの破たんの“法文化”を盾にして、死にものぐるいで解散に追い込もうとするだろう。

 参院の自民党執行部は名だたる強硬論者ばかりであり、捨てておいても関東軍的な暴発を繰り返すだろう。参院執行部は消費増税法案の成否など無視して、解散を獲得しようとするに違いない。野田が応じなければ、問責決議案は確実に提出される。狙いは7月末か8月はじめの解散だ。野田が法案の成立を果たすためには、問責で虻蜂(あぶはち)取らずの解散に追い込まれるよりは、消費増税法案を成立させた上で、自民党との「話し合い解散」か「あうんの呼吸解散」を決断せざるを得ない局面が到来することになる。笑顔ですいすいと合意の状況を作っている自民党執行部の隠された本意は、恐ろしいほど今国会での解散に固執した姿である。自民党の深い思惑を知ってか知らずか、民主党内では小沢一派からマニフェスト棚上げに異論が続出している。もともと、ことは小沢の時代錯誤なマニフェスト原理主義と野田の現実路線との激突であり、こればかりは折り合うことは難しい。もう双方共に多数派工作の段階に入っているのが実情だろう。中間派は体裁のいいことを言っているが、草刈り場となる。反対派は増税先行批判を繰り返しても、社会保障でどんどん合意が達成されているのだから、空しいはずだ。
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