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2012-04-18 09:43

一筋縄ではいかないアフガニスタン「合意」

川上 高司  拓殖大学教授
 米国とアフガニスタンは、米軍が行ってきた「夜間襲撃(あるいは拘束作戦)」について合意に達した。かねてから夜間に民家を襲撃して家人を拘束する特殊部隊による「夜間襲撃」作戦は、アフガン人の怒りと反米感情を高めてきた。それでも米国はこの夜間襲撃作戦を対タリバン作戦として有効なツールとみなしてその回数を増やしつつあった。そこへ米兵が基地の近くの民家を襲撃して17人もの民間人を殺害する乱射事件が起こった。アフガン人の怒りは頂点に達しもはや反米感情を無視することはできなくなり、2014年の撤退スケジュールすら危機にさらされるような状況になった。

 そこでようやく米側も歩み寄り、夜間襲撃の権限をアフガン軍に委譲することで合意した。詳細は明らかにされていないが、大筋では夜間襲撃はアフガン軍が主として行い米軍はあくまでその支援にとどまるというのである。また襲撃作戦の合法性には疑問が投げかけられていたが、アフガン司法当局の令状を得るという方法で違法性をクリアしようとしている。この合意にパネッタ国防長官はじめ米側は満足で、アフガン人によるアフガンの治安維持というそもそもの目標に大きく近づいた、そう米側は評価している。

 つまり、あくまで「夜間襲撃」作戦は続けるという米側の意志は変わらないのである。それはピンポイントでテロリストを狙い撃ちするというオバマ政権の対テロ政策は確固たるものだということの表れである。だが夜間襲撃でアフガン人が怒っているのは作戦の違法性に対してではない。外国軍であれ自国の軍であれそもそも襲撃自体がプライパシーの侵害であり、人権無視で理不尽なのである。さらにこの「合意」は大きな危険をはらんでいる。

 夜間襲撃の対象はおもにパシュトゥ人である。アフガン軍を構成するのはウズベク人やハザレ人などかつて北部同盟を構成していた民族や部族も多い。異なる宗派も混在する。襲撃の目的が民族間や宗派対立に根ざす可能性は依然としてあり、アフガン軍による夜間襲撃が米国の意図する方向とは違った方向へ向いていく危険性はかなり高い。それに対するパシュトゥ人の怒りが膨らんでいけば、もはや米国のコントロールは効かず熾烈な内戦へと突き進んでいくことになる。手放しでは喜べない合意なのである。潜在的に対立するグループの一方だけに軍事支援をするとどうなるか。米国は、イラクやリビアでの教訓を是非活かしてほしい。
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