国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百家争鳴」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2012-01-31 06:56

野田は“パンドラの箱”をどう閉める

杉浦 正章  政治評論家
 愚かにも民主党政権はパンドラの箱を開けて、消費増税二正面戦争の構図を作ってしまった。5%の増税ですら綱渡りというのに、年金抜本改革に固執して、最大7.1%増税など不可能の極みだ。幹部の暗愚さにもあきれるが、首相・野田佳彦までが、1月30日になっってもまだ「2013年に抜本改革の法案を提出する」などと言っている。解散すれば明日をも知れぬ身になるというのに、来年の話など悪いジョークだ。またしても出来もしないマニフェストが祟りにたたっている。今度の場合、先頭を駆けてずっこけた「暗愚テイオー」は幹事長・輿石東だ。その次が副総理・岡田克也、その次が官房長官・藤村修。裏にはいまや「政権祟りマン」と化した元厚労相・長妻昭の「視野狭窄(きょうさく)」があった。そして最大の問題は、これを統御できなかった野田の洞察力の欠如だ。そもそも7万円の最低保障年金という莫大(ばくだい)な財源を必要とする問題を矢継ぎ早に出す力など、どこの政権にもない。

 にもかかわらず、1月6日に政府・与党が発表した一体改革の素案には、長妻の強硬なる主張で新年金法案の2013年国会提出が盛り込まれた。鋭敏にもここに目をつけたのであろう公明党が、19日の与野党幹事長・書記局長会談で、消費増税の協議入りの前提として、年金の全体像の提示を要求した。野党としては民主党マニフェストの金看板を崩すための見事な“仕掛け”であった。深い意味も知らずに輿石は「環境整備をしてまいります」と応じてしまったのだ。こうした中で筆者が就任早々危ういと指摘した副総理・岡田克也が、22日「年金抜本改革に必要な財源は、今回の10%には入っていない。さらなる増税は当然必要になる」と“2兎を追う”かのごとき発言をしてしまった。追認したのは藤村。23日に「将来に延長して計算していくと、消費税率は今のレベルでは足りない」と述べ、「2015年以降にはさらなる税率引き上げが必要になる」との見通しを示したのだ。要するに、政府・与党幹部が皆、ことの重大さを意識しないまま野放図な発言を確信犯的に繰り返したのだ。鳩山由紀夫にせよ、菅直人にせよ、この党の政権には“遠謀深慮”の4文字がない。

 問題は、野田が消費増税一点突破の姿勢を維持していたにも関わらず、これらの発言が問題化する前に手を打たなかったことだ。やっと、ことの重大さに気づいた輿石が真っ青になって政府・民主三役会議で「15年に消費税が10%に上がり、その数年後にさらに7%上がると思われている。早く断ち切るべきだ」と主張したが、もう火の手は母屋にまで延焼しつつある。鬼の首を取ったように、自民党も、公明党も、31日からの予算委員会で追及する姿勢だ。朝日新聞によると、自民党幹事長・石原伸晃は公明党幹部に「まんまと乗ってきた。お手柄ですよ」と胡麻をすっているという。この開いてしまったパンドラの箱をどう閉めるかだが、まず新年金制度の財源試算などさっさと公表してしまうことだ。すべてのマスコミが公表してしまっているものを、政府だけが公表しないのは、尖閣事件の漁船映像のケースと全く同じ「隠ぺい体質」だ。公表した上で「試算は試算であって、確立したものではない」と説明するのだ。それを狙ったのかどうか分からぬが、厚労省が驚くべき将来人口推計を発表した。50年後の日本は、世界でも突出した高齢化スピードで、65歳以上が5人に2人を占めるなど、年金の根幹である人口形態が大きく変化するのだ。

 これをチャンスとばかりに利用しない手はない。新試算を作り上げれば良い。時間も稼げるのだ。加えて、どうせ破たんしたマニフェストの金看板などに固執する必要はない。政権内部でも年金抜本改革について「ただちに現実化できる方向には出ていない。改めて時間をおいて再構築をせざるをえない」(財務副大臣・五十嵐文彦)といった、まっとうな見直し構想が出ているではないか。野田は、30日「抜本改革法案は13年の法案提出を目指す」などと答弁をしているが、冒頭述べたように現行制度を根幹から変える大改革が来年可能になるなどと言う浅薄な判断をしているとすれば、驚きだ。それとも出来ないことを承知で言い続けるつもりか。政治に虚構を入れて失敗したのは、前2代の首相で十分ではないか。ここは正直にマニフェストの“破棄”を宣言すべきところではないか。財源案などあらゆる金看板が不可能になったのだから、もう破棄しかあるまい。その上で消費増税だけの一点突破に戻ることだ。大謝りにあやまって、消費増税だけを生き残らせる。これが野田に残された責任というものだ。
  
 
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百家争鳴』から他のe-論壇『百花斉放』または『議論百出』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
東アジア共同体評議会