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2011-12-25 09:08

(連載)TPPへの参加は賢い選択とは言えない(2)

山下 英次  大阪市立大学名誉教授
 日本政府の第3番目の罪は、すでに述べたように、2005年12月、東アジア・サミット(EAS)の設立を巡る動きである。EASは、元々、2002年11月、ASEAN+3の13カ国の枠組みをベースとした政府間の「東アジア・スタディ・グループ」(EASG)の最終報告から出てきたものである。これは、アジア地域統合の未来像に関し、AESAN+3の13カ国の政府ベースでの合意を伴った、今日に至るまでで最も重要な公式報告書である。そこでのEASに関する位置づけは、ASEAN+3という名称には、日中韓という大きな経済規模を持つ国が、単に「プラス3」と表現されており、如何にも不自然であるので、名称を「東アジアサミット」に改めようという合意であった。

 また、ASEANが前に来て、日中韓が後に来るというのも、如何にも不自然である。然るに、いざ、EASを設立しようという段階になって、日本政府が横車を押して、オセアニアを含めるべしという参加国の範囲拡大を提案した。その結果、最終的には、EASにはASEAN+3に加え、オーストラリア、ニュージーランド、インドが加わり、16カ国となった。こうして、それ以降、ASEAN+3の13カ国のグループとEASの16カ国のグループが併存する形となり、地域統合に向けたエネルギーが分散されてしまうこととなった。今回の野田総理による事実上のTPPへの参加表明で、日本政府は、アジア地域統合に対して、「前科4犯」になってしまったのではないかと私は危惧する。日本の国益にとっても、アジアの利益にとっても、誠に由々しい問題である。

 第2に、米国がTPPになぜ本腰を入れてきたのか、その背景を押さえておくべきである。アメリカは、かつて、南北アメリカ全体の34カ国を対象とした自由貿易協定であるFTAA(米州自由貿易地域)の設立を目指した。ブッシュ政権当時の2005年11月、アルゼンチンのマル・デル・プラータで開催された第4回米州サミットで設立の合意を目指したが、南米諸国からほぼ総スカンを喰らって、会議は決裂し、実現しなかった。これは、ラテン・アメリカ諸国の米国型市場原理主義とこれまで続いてきた米国の身勝手な外交政策に対する明確なる拒絶を意味すると考えてよいであろう。市場原理主義は、ブーム&バーストを繰り返すことになるわけであり、アジアもまた、これに与するべきではない。

 第3に、日米同盟の深化の観点からTPPに参加すべしとの意見があるが、これ以上、日米同盟を深化すべきというのだろうか? それは、むしろ、時代に逆行する。これまで、わが国は、日米同盟の名の下に、どれだけの経済的損失を蒙ってきたであろうか? わが国の「失われた20年」は、基本的には、米国が市場操作を含めて推進した超円高の進行、各種経済摩擦における対米譲歩などを通じて米国から輸入されたものであったことを想起すべきである。野田佳彦首相は、「豊かさを次世代に引き継ぐにはアジア太平洋地域の成長力を取り入れなければならない」というが、そもそも成長力はアジア太平洋にあるのではなくアジアにあるのである。また、「日本の未来を拓くためにTPPに参加を表明する」というが、私に言わせれば、TPPへの参加は、日本の未来を狭める。最悪の場合には、衰退していく米国と一緒に沈むシナリオになる可能性を否定できないと強く危惧せざるを得ない。(おわり)
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