国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百家争鳴」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2011-10-24 12:00

(連載)中国高速列車事故とチェルノブイリ(1)

山下 英次  大阪市立大学名誉教授
 7月23日の中国浙江省の温州市での高速列車衝突事故とそれを巡る大混乱は、かねてから中国が抱える最大の長期的課題とその将来を占う上で、重要なヒントを与えることになるかもしれない。今回のような、人災による大惨事とその後の政府対応の明確な誤りは、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故とその後の成り行きを想起させる。中国にとっての、最大の長期的課題というのは、他でもない、政治上の民主化をいかに進めるかということである。

 現在の中国には、経済制度と政治制度の大きなミスマッチが存在する。しかし、これは、いずれ収斂させていかなければならない。いまさら、経済制度を統制経済に戻すことはできないので、いずれ政治上の民主化を進めることによって、両者のミスマッチを解消するしかないであろう。問題は、そのプロセスが、ソフト・ランディングで済むのか、それとも社会の大混乱を伴うかということである。当然のことながら、中国社会の大混乱は、日本を含む近隣諸国に対しても様々な面で極めて大きな影響を及ぼす。最悪の場合には、中国では内乱の危険性すらないとは言い切れないのではないだろうか。当然のことながら、この問題は、アジアと日本にとって非常に大きな問題であるが、国際社会全体にとっても、21世紀における最大のアジェンダの一つと言えるであろう。

 今回の列車事故のような人災による大惨事とその後の政府対応の明らかな誤りは、自然災害は無論のことだが、少数民族の暴動よりも、中国指導部にとってより大きな痛手となるのではないだろうか。旧ソ連のチェルノブイリ原発事故は、グラースノスチ(Glasnost)の進展を促進させ、さらには、ほとんどの人が予想できなかった結末、すなわち、1991年12月のソヴィエト連邦の解体に至る遠因となった。1986年4月26日未明に起きた旧ソ連ウクライナのチェルノブイリ原発4号機の事故の場合、当初、例によって、旧ソ連は事故を隠蔽していたが、翌日、チェルノブイリから1,100km北西に位置するスウェーデン・ウプサラ県のフォルスマルク原発で、異常な放射能が計測された。スウェーデンの当局者は、当初、どこかで核戦争でも始まったのかと推測したといわれるが、核種特定の結果、旧ソ連が独自に開発したRBMK型と言われる原子炉からのものであることが判明し、ソ連で原発事故かと国際的に大々的に報道されるところとなった。

 それを受け、旧ソ連政府も、4月28日になって事故の事実を認めた。それ以後、しばらくの間、旧ソ連の報道は、旧態依然とした不十分なものであり、国内だけでなく、西ヨーロッパの人々の間にも疑心暗鬼がひろがった。チェルノブイリは、ウクライナの最北部に位置し、ベラルーシとの国境近くに位置する。事故現場から110km程度南方のウクライナの中心都市キエフでは、脱出を図る市民で一時恐慌状態をきたしたと言われる。事件からおよそ20日後、ゴルバチョフ書記長は、テレビ演説で、一応の事件の概要報告を行った。これは、従来のソ連からすれば、率直かつ詳細なものであった。その後、党機関紙『プラウダ』は、グラースノスチ・キャンペインを行い、国営テレビの看板報道番組『ヴレーミア』をやり玉に挙げ、原発事故報道が遅く不十分であると批判するようになる(宇多文雄『グラースノスチ―ソ連邦を倒したメディアの力』、新潮選書、1992年)。(つづく)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百家争鳴』から他のe-論壇『百花斉放』または『議論百出』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
東アジア共同体評議会