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2010-11-24 07:40

北の砲撃は「狙い澄ました」暴走だ

杉浦 正章  政治評論家
 一見偶発のように見えるが、明らかに狙い澄ました常軌逸脱の軍事行動である。民間人殺戮も辞さない北朝鮮による大延坪島(ヨンビョンド)砲撃事件の背景には、米国との直接対話実現を促す従来からの側面がまず挙げられる。加えて、後継者で大将の金正恩に“初陣”を飾らせて、北の外交・軍事路線を“学習”させるとともに、内輪もめ状態にある軍の統一を図る狙いが大きい。日米韓3国は連携して、安易な妥協に走るべきではない。「狙い澄ました」というのは、まず北は米政府特別代表スティーブン・ボズワース(北朝鮮担当)の核兵器製造疑惑での日韓歴訪をウオッチし続けた。ボズワーズが23日午前東京で記者団に「北朝鮮を巡る状況は危機ではない」と言い残して訪中したのを確認した上で、数時間後の午後2時34分に砲撃を開始した。危機ではないかどうか「眼に物見せてくれる」というわけだ。山を越えた砲撃も、住民によると大きな建物や発電所を狙っており、照準をちゃんと設定した上での攻撃だ。加えて戦術核再配備論を、韓国国防相が22日に打ち上げたのも、引き金の1つになった可能性がある。

 民間人の居住地域への攻撃は1953年の休戦成立以来のものであり、民間人に被害が出ることも十分計算に入れた、確信犯的な攻撃でもある。また、砲撃を紛争多発地域で発生させたのも、地域限定の暴挙にとどめる意思表示であろう。もちろん砲撃は軍部の勝手な独走などではあり得ない。逆に金正日が金正恩に指示しているに違いない。報道によると、軍内部の情況は、金正日が金正恩を大将に就任させ、軍内部の若返りを断行して以来、左遷組を中心に内輪もめが絶えないといわれている。首脳部は、軍内部の不満を察知して、内部統一のための常套手段に打って出たのだ。また、対米関係では、自国の安全保障のための平和協定につながる2国間対話の実現に従来からこだわってきたが、今回もその促進を狙ったものであることは間違いない。米国の“脅威”を何としてでも取り除きたいのである。

 北は、まず米国の核専門家であるロスアラモス研究所のヘッカー元所長を招いて、寧辺(ニョンビョン)の秘密施設でウラン濃縮用の遠心分離機多数を見せた。暗に核爆弾を既に所有し、ミサイルにも搭載可能であることを、米国に印象付ける意図があったのだろう。しかし、米国はこれには動ぜず、逆に同盟国固めに動いた。米国の反応は素早かった。ボズワーズを急遽日韓両国に派遣して、米韓、米日の連携を確認。その上で、訪中させて、中国に6か国協議の議長国としての責任を求める動きに出た。北は、その矢先をとらえて、こんどは砲撃という言語道断の暴挙に出たものであろう。大将・金正恩を2012年の金日成生誕100周年記念までに、後継として仕立て上げるための環境作りの側面もある。日米韓3国は脅せば柔軟になる、という北朝鮮外交の信念を、金正恩に“学習”させる狙いもあろう。この路線を走るしかないことをすり込み、国民の賞賛を演出し、後継へと仕立て上げるのが狙いだ。

 北東アジアを巡る情勢は、一段ときな臭さが増しているが、少なくともこの場面における韓国の自制は、尊敬に値するものであろう。恐らく国際的な評価も出るだろう。韓国は、国連安保理事会に問題提起する流れのようだが、中国首相・温家宝の訪露の動きが気になる。中露首脳会談で、対日領土問題で「結託」したのと同じように、北朝鮮問題でも「結託」する可能性があるからだ。国連においても、6か国協議が開かれれば、その場においても中露「結託」の動きが出て来るような気がする。北の砲撃と核兵器保持は、韓国に戦術核再配備論を高めさせ、日本にも核兵器保有を促す要素になり得るが、いずれも無謀だ。北に対しては当面外交で孤立させ、経済で締め付け続ける両面作戦しか選択の余地はあるまい。
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