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2010-11-15 07:31

浮かび上がった対中牽制の構図:日米首脳会談

杉浦 正章  政治評論家
 「尖閣・北方領土事件」で置かれた立場がやっと理解できた首相・菅直人が、対米路線最重視の方向にかじを切り、日米安保関係が正常な軌道に戻ろうとしている。菅・オバマ会談は、冷戦時代の日米首脳会談をほうふつとさせるように、安保での協調姿勢が前面に打ち出された。日米、日中、日露の首脳会談を通じて全体を太筆書きで分析すると、安全保障面では北東アジア・東シナ海での日米協調による中国けん制の構図が浮かび上がった。日米会談は、外務当局による事前の調整もよくできていた。尖閣沖衝突事件とメドベージェフの北方領土視察に関して、菅が米国の「支持」に謝意を述べるとともに、「日米安保条約の重要性と米軍のプレゼンスを多くの地域や国民が感じた」と表明した。これに対して米大統領・オバマが日米同盟の時代に即した「深化」の必要を強調し、「中国が国際社会の一員として国際的なルールの中で適切な役割、言動を行うことが重要だ」と最近の中国の動きにくぎを刺した。両首脳が一致して日米同盟「深化」を確認、中国に強い牽制球を投げるという構図だ。

 あの忌まわしき「鳩山外交」が“半壊”させた日米協調路線が、普天間問題などをとりあえず棚上げして、再構築される入り口に立ったことになる。まぎれもなく領土をめぐる中国、ロシアの強硬姿勢は、日米関係の亀裂、脆弱(ぜいじゃく)化を読み取った上でのことである。菅は、厳しい国際関係の現実がようやく分かったことになるが、民主党政権にとっては高い“授業料”であった。外交の稚拙さが内閣支持率を20%台に突入させてしまったではないか。よく米国が“戻ってきてくれた”ということになるが、米国にとっても国際秩序無視の19世紀的な膨張主義をとる中国に手を焼き、太平洋にまで進出しようとする海洋戦略に対して、日米安保関係を防波堤に使わざるを得なくなったのだ。ドイツZDFテレビだけが報じていたが、オバマは横浜滞在中「他人の負担で私服を肥やそうとする国に配慮しない」と通貨問題での中国の姿勢を痛烈に批判したという。米国の対中嫌悪感も相当なものがあるのだ。親米派の外相・前原誠司が就任して、民主党政権への不信感も徐々に解消されつつある。

 この日米安保路線の正常軌道入りは、中国にいきり立った尖閣の拳を下げさせた効果がある。国務長官・クリントンが前原に「尖閣諸島は安保条約の適用対象」と発言したあと、中国は一時的に反発したが、その後急速にトーンダウンしている。やはり日米安保体制は対中けん制に不可欠なのだ。もっとも菅外交は中国と対決姿勢で臨むべきではない。当面は経済・文化・スポーツ面での交流強化こそが中・長期的に見た戦略的互恵関係の確立につながるのであり、日米安保関係の修復は衣の下の鎧(よろい)を垣間見せることでよい。鎧を見せなければ分からない国には、ちらりとみせればよいのだ。それを日中対話の促進材料につなげてゆくのだ。「異質な国」中国を国際社会で大国にふさわしい振る舞いをするよう“善導”するのだ。既に中国は、国際世論の反発とその中での孤立を気にしだした感じもある。当分事実上の政経分離も一策だ。

 鳩山外交が象徴したものは、国の安全保障は天から降ってくるという安易な発想である。また、各種世論調査は、尖閣沖衝突事件が国民に日米安保体制の持つ重要な側面を再認識させるうえでプラスの効果だったことを物語っている。オバマは来春の菅訪米を招待し、菅も受諾。その際、懸案である日米安保50年となるに当たっての共同声明を出すことでも合意した。菅政権の寿命がそれまで持つかどうかは別として、普天間という喉にささったトゲをどう抜くか、一体抜けるのか、という問題が宿命的に民主党政権にまとわりつく。しかし尖閣・北方領土で中露が「結託」して見せた“野獣本能”的な動きは、良好な日米安保関係なくしては跳ね返せない。誰が首相であろうとも、訪米と共同声明で関係を再確立することが不可欠だろう
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