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2010-10-22 07:33

検事総長は政治と“癒着”せず、即刻辞任せよ

杉浦 正章  政治評論家
 検察史上まれな事件を引き起こしておきながら、前特捜部長と元副部長の2人を起訴して、まさかトカゲのしっぽ切りで済ますつもりではあるまい。組織ぐるみの犯罪である以上、総責任者としての検事総長・大林宏の引責辞任がなければ、幕引きできる話ではない。折から官房長官・仙谷由人が進退問題に波及する可能性があることを強く示唆しているが、政治の圧力に屈した形の辞任は、検察組織に禍根を残す。検察内部からも「続投」批判の声がある。自ら早期に辞任すべきだ。大阪地検特捜部の押収資料改竄(かいざん)・犯人隠避事件がりつ然とさせるのは、戦前、戦中の思想犯に対する特高の対応とそっくりだからだ。証拠があろうと、なかろうと、「しょっぴいて」拷問して、吐かせる。証拠なんぞは、いくらでもねつ造する。大阪地裁は「15年は刑務所に入れてやる」「家族も逮捕する」などの脅迫的取り調べを理由に、特捜部検事の作成した供述調書12通を証拠採用しなかったという。

 こうした取り調べは氷山の一角だろう。それに押収資料改竄が加われば、特高と変わらない。思想事件と酷似している。検察ファッショそのものでもある。しかし、10月21日の法相・柳田稔の大林に対する厳重注意と異例の指示には、「総長の強いリーダーシップを発揮せよ」という文言が入っており、辞任をうかがわせるものではない。大林自身も、記者会見で「失われた検察に対する信頼を一刻も早く回復することが、私に課せられた責務であると考えている。検察の在るべき姿を取り戻すべく、全国の検察庁職員とともに全力を尽くしたい」と、責任を取る気配はない。むしろ組織改革に意欲を示しており、「続投」での政治と検察の“出来レース”と“癒着”を感じさせる。さすがに仙谷も世論を気にしてか、検事総長の進退問題に関し「(検察改革の方向性が出るに)いたってから、あるいはそこに至る過程で、問題が出てくる可能性は十二分にあると思う」と述べた。

 これでは問題の先延ばしになる可能性がある。いつ完了するか分からない組織改革までやっていたら、けじめが付かない。民間でもたとえ就任早々であろうと、トップは責任を取るのが仕事だ。検事総長は捜査に一定の区切りがついた現時点で、潔く辞任すべきだ。というのも、菅政権は“検察コントロール”の臭いが芬々(ふんぷん)と漂っているからだ。尖閣事件で検察に外交上の責任を押しつける猿芝居に、検察が応ぜざるを得なかったことが物語るものはなにか。紛れもなく押収資料改竄事件で、政治に“弱み”を握られたからに他ならない。地方検事が外交問題を理由に挙げて船長を釈放する、という前代未聞の事件は、検察が政治の支配下に置かれたことを物語っている。もし検事総長が釈放を拒否していたら、柳田は総長辞任へと動いていただろう。

 検察、とりわけ地検の特質は、政界汚職事件への切り込みの鋭さにある。今後折に触れて外交ばかりか、政治家の不祥事でも圧力がかからないとは限らない。それどころか菅政権では汚職の摘発ができるかどうか、という不信感も生じる。検察が常日頃政治との緊張関係を保つことは不可欠であり、そのトップの進退が政治家に追い詰められたような形で決まれば禍根を残す。検察の内部改革など誰でもできる。問題はけじめだ。政治に検察コントロールの材料を与え続けてはならない。民主党内に検事総長の進退を国会取引の材料にする思惑もあるというが、これこそもってのほかだ。事態は、検事総長が早期辞任によって身を処すことしかない。それが証拠改竄の重大性をどこまで認識しているかを示す証左となるのだ。
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