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2010-06-03 00:01

「官」はなぜ「民間」非営利組織を支配下に置こうとするのか

入山 映  サイバー大学客員教授・(財)国際開発センター研究顧問
 ひとことに「民」というが、大きく分けて二通りある。一つはいうまでもなく、企業に代表される営利のための組織。いまひとつは住民運動とか、最近よく耳にするNPOなどのような営利を目的としない運動や組織だ。とかく前者(企業)は金儲け、後者(非営利組織)はそれとは無縁みたいに思われがちだが、ここで営利と金儲けの異同について触れておきたい。つまり、営利と金儲けは違う、ということだ。金儲けとは、いうまでもなくかかった経費以上の収入を収受して、その差額を利益として確保しようとする活動だ。これに対して営利というのは、あがった利益のつかわれ方に着目する。利益を組織の構成員や利害関係者で配分する、つまり分け合いましょうというのが営利で、それを目的として投資や経済活動が行われるのは、先刻ご承知の通りだ。

 ということは、金儲けそれ自体は、あがった利益を何につかうかは念頭にないということだ。関係者で分け合うのではなく、慈善の為に使うもよし、アフリカの食料確保に寄付しても良い。地域に不足している児童保育施設建設にあてても、外国人労働者の為の日本語教育機関設立に使っても良い。あがった利益を関係者で配分して、始めて営利行為になる。逆に言えば、利益配分を行わなければいくら利益をあげても、それは非営利だということになる。

 経済規模から見て、営利組織の巨大さに較べれば、民間非営利組織の規模は微々たるものだ。あえて「民間」非営利組織というのには、訳がある。政府やお役所、つまり「官」の組織は定義的に非営利だから、それと区別する意味があるからだ。ときどき税金を仲間うちで分けて使ったりする輩もいるが、それはまた別の話だ。だから、とかく「民」というと営利組織のことが念頭に浮かぶのだが、実は民間非営利組織の存在意義には極めて大きなものがある。

 というのも、営利組織というのは、当然のことながら市場原理の枠の中でしか活動しない。公的サービスの市場化にはもちろん意義があるが、同時に限界があるのも良く知られている。そんな場面で「官」に代りうる主体としては、民間非営利組織がクローズアップされるのは必然だといってよい。逆に言えば、「官」がその特権的地位、主体的地位を脅かされたくなかったら、民間非営利組織を自らの支配下におくことに腐心するのは当然のことだ。あのグロテスクな天下り公益法人、人呼んで官益法人というのもその副産物に過ぎない。それよりも問題なのは、しなやかに活動すべき民間非営利組織に手かせ足かせをはめて、意のままに操ろうとする官僚主義。それを保証する公益法人制度だ。ことは公益法人制度だけではなく、百を超える官僚統制の仕組みによって、民間非営利組織を去勢も同然の状態においている日本の現状である。これを放置して「新しい公共」もないものだ。
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