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2010-02-05 13:13

偏狭な民族主義から距離を置こう

浦木赳治  大学生
 2月4日に、日中双方の研究者が参加した「日中共同歴史研究」の結果が発表された。東アジアの歴史問題は、貴評議会が主要研究テーマとする東アジア共同体構築に深く関わる問題の1つと考えるので,今回の歴史研究に至る日中韓における諍いについて、個人的に感じ、あるいは考えた事を投稿させて頂きたいと思う。日本が周辺各国で外交を展開する際、有形無形を問わず必ず何らかの形で、歴史問題に関して鋭い視線が日本に向けられる。日本の側にも、配慮が足りなかった点や対応が不十分だった点はあったとは思う。しかしそれと同時に、日本が戦後を通じて軍国主義時代に対する反省や検証をメディアや教育を通じて行い、概して偏狭なナショナリズム、民族主義から日本社会が距離を置く事に努めてきたのは事実である。

 事実、日本には戦争不信がまだ生き続け、軍事力に頼る外交に否定的な世論が健在である。日本ほどの経済大国が軍事力行使を手控え、外交における単独行動を避け,多国間の合意に基づく共同行動を重視してきた意義を、中国や韓国は認識する必要があり、これを過小評価してはならない。そもそも相手国を「軍国主義に回帰しつつある」などと批判する国の側が、偏狭な民族主義や誤解に基づく固定観念を掲げるのは矛盾であり、そんなことをいう資格はないことになる。大体そのような主張自体が、日本の戦後の歴史や社会の実情を正確に把握していない証拠である。彼らは、自らの色眼鏡(プリズム)を通じて、日本の行動を、自らに都合良く感じられるように解釈しているだけなのではないか。

 「日中共同歴史研究」においても、日本は、他国に対しても、自国に対しても、客観的かつ多様な視点で事実を実証的に検証する姿勢を堅持していると言ってよい。植民地時代や侵略戦争時の賠償問題においても、国交締結当時経済支援による手法を決定したのは、中国・韓国政府であった事は、各種外交文書からも証明されている。従軍慰安婦への補償においても、その条約体制からして可能なぎりぎりの官民共同基金という形をとったのであり、たとえそれが不十分だったとしても、日本政府に謝罪の意思があったという事実は決して消えはしない。このような戦後補償をめぐって限られた選択肢の中で苦闘せざるを得なかった経緯を無視して、戦後補償問題のみならず、竹島や南沙諸島など利害関係の調整をめぐる問題に、自国の民族主義を持ち込み、相手が示した譲歩や妥協に対して拒否反応を示すのは、矛盾であり、不当である、と私は感じる。「日本が我々の主張を認めた」「我々は日本に対して勝った」などと国内で宣伝する限り、そして中国・韓国国内において日本に対する一方的主張を誇示しつづける限り、自国のナショナリズムに対する自省的・客観的態度が育まれることはなく、「日本も問題解決に向けて努力している」との認識がある程度浸透しない限り、問題の最終解決は望めないだろう。

 偏狭で排他的な主張や姿勢が双方にとって何の根本的解決にも繋がらない事を知らしめるためにも,日本政府はあくまで偏狭なナショナリズムとは距離を置き、国家間の合意を重視して行動しているのだと対外的にアピールし、自らの主張の道義的な正当性を勝ち取ってゆく事に専念すべきである。ナショナリズムに対しナショナリズムで応酬するのは、愚の骨頂である。そんな事をすれば、ネットの掲示板で偏狭な愛国主義を主張するユーザーのような連中と日本は同じ程度に成り下がり、日本が戦後懸命に築き上げてきた価値観や対外的信頼の自己否定にも繋がってしまう。それはあまりに勿体ないし、無意味な事だ。戦争時の犠牲者への追悼方法について言えば、戦争の被害者や犠牲者は国や民族を問わず公平に尊重され、追悼されるべきである、と私は信ずる。しかも、その犠牲は、日本人でも韓国人でも中国人でもなく、一人の人間が個人個人として味わった苦難であり、時の政府による民族主義的な主張や外交上の戦略といった思惑に利用されるものであってはならない。そもそも犠牲者の地位や失われた存在の価値に対し国や民族を理由として優劣などつけてはならないのだ。

 日本社会の側も、右翼、左翼の主張に関係なく、中国系・韓国系の人々に対し教育や社会参加の面で多文化主義や異なる価値観の共存を働きかけるよう努力を続けるべきだ。たとえ相手がそれに応じなかったとしても、それは彼らの落ち度であり、我々にとってマイナスの要素にはならない。中韓からの批判の正当性を失わせ、日本国憲法における基本的人権の尊重という理念に忠実に行動する意味からも、社会内部の差別や偏見に対しては厳格に対応し、日本全体として人権保護を重要視していることを明確に示し続けるべきである。さらに、外国人の地方参政権問題に対しては、納税義務を果たしているならば、権利付与は実行すべきだろう。そもそも日本政府が、少子化に対応するための労働力確保を念頭に入れ、移民受け入れ政策の推進を望むならば、彼らが日本に居住してからの社会統合にも目を向ける必要があると思うからだ。寛容は、不寛容に対して断固とした態度をとる一方、常に寛容へと引き入れる道を開いておかねばならないと考える。それは外交の場においても、一層重要なのだ。
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