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2009-09-08 07:40

危惧される岡田外相人事

杉浦正章  政治評論家
 新外相に決まった岡田克也人事を、読売新聞が「体よく追いやられた」と書いて民主党の熱烈支持者がネットでカンカンに怒っているが、事実関係はその通りだから、いくら怒っても仕方がない。小沢一郎が「幹事長になる」といえば、鳩山由紀夫は即座に従うのだから、むしろ見事な表現だ。しかし追いやられたポストが外相とあっては、ことは重大だ。韓国の朝鮮日報が鳩山政権を「日本に“脱米入亜”の動き」と報じているが、その理論的支柱である外交安全保障ビジョン(岡田ビジョン)を、岡田は2005年に発表しており、あきらかに“脱米入亜”のトーンで貫かれている。中国が「岡田外相」を歓迎して、米国が懸念を抱くのも無理はない。岡田には自説に固執する偏執癖があり「原理主義者」の別名を持つ。対米摩擦が懸念されるところである。

 岡田は来日した米国務次官補・キャンベルと会談して、「オバマ大統領と鳩山首相の信頼関係を作って、一つ一つ懸案を解決しよう」と持ちかけたが、これを本末転倒という。人間関係はまず発言や行動に基づいて発展してゆくのであり、歴代自民党首相が就任早々「米大統領と信頼関係を築く」と言えたのは、自民党政権と米大統領という信頼の絆があってのことである。裏で悪口を言いながら、握手を求めても、真の友情は生まれない。岡田ビジョンにもこの矛盾撞着が内在している。まず岡田ビジョンの根幹は「日米同盟を基軸としつつ、アジアとの連携を深める」点にあるが、問題はアジアとの連携だ。強く主張しているのが「東アジア共同体構想」であり、中国がきわめて熱心に推進してきた。米国は同構想に対して非常に強い警戒心を持っており、まずこれで米国の神経を逆なですることになる。東アジアにおける日米同盟に支障が生じかねない。だいたい一党独裁の中国と共同体を共にすることが可能だろうか。

 岡田は「核の傘を一歩出る議論が必要だ」と述べ、米国の核抑止力に依存する「核の傘」からの脱却を主張している。政権交代後に米国を含めた核保有国の核先制使用禁止宣言も唱えている。北朝鮮の核武装で核の傘に頼らざるを得ないのが常識となりつつある中で、方向性が違うのではないか。核抑止力放棄の暴論ではないか。岡田原理主義は自説に自信過剰となるあまりに「理路整然と方向を間違える」ような気がしてならない。さらに日米同盟についても「その範囲をアジア太平洋地域に限定し、それを超えた範囲で 自衛隊を活用する際には、国連決議を基本としなければならない」としている。しかし、これではテロとの戦い一つ取っても、国際常識にそぐわない。一国平和主義に直結する発想だ。岡田は「私は国連至上主義でなく国連重視」とも述べているが、国連などという「会議は踊る」場に、国の安全を託してよいのか。

 加えて、在日米軍地位協定の抜本見直し、普天間飛行場の県外移設、インド洋での自衛隊の給油活動反対などに至っては、持ち出せばすぐ米側の反発を受けるか、代案の提示を求められる。要するに、野党時代のような気楽な与党批判の延長線上での対応は、冷徹な国際外交の場では通用しないのである。岡田は「今後アメリカとFTA(自由貿易協定)を締結し、日米のマーケットをより共通化していく必要がある」が持論だが、これも農業団体の猛反発を生じさせることは必至だ。問題は、鳩山論文にしても、岡田ビジョンにしても、その発言にしても、マニフェストで避けて通った問題ばかりであることだ。どれ一つ取っても選挙の主要テーマになり得る問題を避けておきながら、これを実施に移すことは民主党政治の欺瞞(ぎまん)性と言うほかない。とりわけ岡田が自説にこだわるあまり、外交の継続性を無視し、現実路線に転ずることが出来なければ、大きな問題だ。方向転換しない限り日米外交・安保摩擦は避けられまい。
 
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