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2009-06-18 10:37

(連載)平和条約問題解決には「痩せ我慢」も必要(2)

袴田 茂樹  青山学院大学教授
 一方、不思議なことに、ロシア側では日露関係においても今後領土問題の比重はますます小さくなる、といった見解が幅を利かすようになっている。今回の5月のプーチン訪日と日露首脳会談の後、ロシアのマスコミが日露関係に関してどのように伝えているかをフォローしてみる。ロシアの政権との関係も強く、言論界で影響力を持つセルゲイ・カラガノフ外交国防政策会議議長は、「日露両国関係において領土問題はますます小さな役割しか果たさなくなる。日露協力の天然液化ガス(LNG)工場の建設(サハリン2)がその突破口となる。今後日本はロシアのエネルギーにますます強い関心を抱くようになるだろう。南クリル(北方領土)における天然資源の利用に関しても、協力が可能になるかもしれない」(『独立新聞』 2009.5.13)と述べている。

 『ガゼータ・Ru』(2009.5.13)は、「日本との経済協力が進展し、ロシアの地域(極東、シベリア、クリル)経済発展計画が先に進めば進むほど、日本が4島を受け取るチャンスは小さくなる」と、歯に衣着せずに述べている。『コメルサント』(2009.5.13)も、最近の谷内発言に関連して「平和条約問題での日本側の立場の進展(=後退)は明確である。(4島を要求していた)日本側は、すでに択捉島の半分はロシア側に残すつもりだ。事態がこのように進めば、あと半世紀経てば、日本側は4島の内の3島と4分の1、あるいは3島のみを要求するようになるだろう」と述べている。

 「奇妙な状況」とか「不思議なことに」と述べたが、実は不思議でも何でもない。日本側が、北方領土問題の解決をいくら強く主張しても、経済問題でロシアとの協力関係を熱心に求めている以上、領土問題は期待だけ持たせて、実際は棚上げにすればよい、との腹なのである。プーチンの立場は明確である。日本における記者会見で、両国の経済協力が進めば進むほど、領土問題の解決は遠のくのではないか、という日本人記者の質問に対し「われわれは平和条約問題について交渉するが、それは経済協力の条件をつくるためではない。われわれは、平和条約調印の条件をつくるために、経済関係を発展させるのである」(『イトーギ』(2009.5.13)と述べている。

 つまり、領土(主権)問題の解決が両国関係発展の条件だという「入口論」に対して、ロシア側は経済その他の関係発展が、問題解決の条件である、との「出口論」で突っ張っているのだ。ちなみに、プーチンの立場に関するこの記事の題は「深慮遠謀」である。(つづく)
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