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2009-06-05 05:07

東アジア共同体と北朝鮮、台湾、ミャンマー

石垣 泰司  アジアアフリカ法律諮問委員会委員
   将来の東アジア共同体の構成国・地域については、当面、ASEAN+3(日中韓)ないし東アジア・サミット参加国(ASEAN+3+インド、豪州、ニュージーランド)を想定して議論を進めていくことについて、余り異論は聞かれない。しかし、これは、東アジア共同体に関する取り組み及び論議が現時点では依然として初期的段階にあり、いわば入口論の域を出ていないからであって、具体的に構成国・地域を真剣に確定する必要が生じてくれば、ASEAN+3に隣接している北朝鮮や台湾をどうするのか、ということがすぐ問題となる。

   北朝鮮は、6者協議を否定し、核兵器・長距離弾道ミサイルの開発を推進している現下の情勢においては、共同体構築に向けての地域協力の一員と考えるのに最もふさわしくないことは明確である。従って、当分の間北朝鮮を対象に含めないことについては、関係国間に暗黙の意見の一致があると見て良いであろうし、そもそも北朝鮮自身が全く関心がないとも思われる。次に、台湾については、平和愛好・人口・経済規模からいって東アジア共同体が発足する暁には、含まれていないとおかしく、台湾政府としても強い関心があると思われる。しかし中国政府は、台湾が中国とは別個の政治主体として参加することは到底容認しないと考えられるので、中国・台湾関係が何らかの形で政治的解決をみるまでは、台湾がASEAN+3の論議に参加することは予想し得ない。ただ、台湾の中国との関係は、国民党の馬英九政権成立以来、徐々に改善に向かっているようであり、最近中国の了解の下で台湾の長年に亘る悲願であったWHOへの加盟が実現するなどの進展も見られている。

   一方、以上の域外国・地域とは別に、東アジア共同体のドライバー役を自認するASEAN内部にも、大きな問題を抱えている国として、ミャンマーが存在する。従来よりアウン・サン・スー・チーの取り扱い、民主化・人権問題をめぐる同国軍事政権の対応については、欧米諸国より強い批判があるが、近年はASEAN諸国内部からも強い批判が向けられるようになった。2006年夏より本来ASEANの議長国に就任する筈であったミヤンマーが、他のASEAN諸国より様々な働きかけ・圧力を受けた結果、議長国就任を辞退せざるをなかったことも記憶に新しい。

最近、アウン・サン・スー・チーが邸内に勝手に侵入した米国人と面会したと報じられた事件は、他の国では何らの犯罪行為でもないが、ミャンマーでは当局が事前に承認しない同氏の外国人との面会は国家防御法違反の重罪であるとして、刑事訴追され、身柄拘束の上裁判が行われている。このことは、東アジア共同体構築に向けてミャンマーの異質性をクローズアップしたといえる。ミャンマーは、他のASEAN諸国と価値観を共有しているとは言い難い状況となりつつある。筆者は、70年代同国に勤務した経験もあり、ミャンマー情勢についてはできるだけ同国政府の立場も理解するように努めてきたが、最近の当局側主張は、理解の限度を超えてきている。ミャンマーの民主化・人権にかかわる問題は、昨年末発効したASEAN憲章にも内政不干渉の大原則が謳われているため、ASEAN諸国内部で法的に問題にすることはできないが、政治的、道徳的観点からの批判は、今後とみに高まっていくことは必至であろう。
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