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2009-03-27 00:00
官邸クラブの紳士協定はどうなった
杉浦正章
政治評論家
一体首相官邸記者クラブの紳士協定は近ごろどうなっているのだろうか。「政府高官」や「政府筋」の名前で“懇談”したはずの取材対象の名前が、次々に暴露されている。“懇談”形式は、記者会見で表立って言えない内容を聞くために記者クラブが編み出した苦肉の策であり、現段階では真実への肉薄にとって不可欠の取材形態と言ってよい。名前を明かさない約束の取材対象の名前が、野党の国会質問にまで登場する。まるで「西山事件」を思わせる事態である。口が裂けても取材対象との約束は守る。これが記者の最低限のモラルだが、そのモラルが無くなっては、政治記者もトップ屋と変わりがない。発言の内容についてはここでは論じまい。官房副長官・漆間巌の「自民党は立件できない」旨の発言も、今回野党が明らかにした官房副長官・鴻池祥肇の「北のミサイルは撃ち落とせない」発言も、「官邸3バカ発言」の2つとして長く記憶されるべきものだろうからだ。他の1つは、官邸の主がもっぱら受け持っている。
しかし、いくら問題発言でも、匿名を前提で聞いた話をいかなる形でも公表すべきではない。建前論に終始しがちな記者会見を補う形での“懇談”が必要なのは、記事の深みを増し、一歩でも真実に近づく必要があるからだ。かってワシントン駐在員として政治中枢部を取材したことがあるが、ホワイトハウスでは「政府高官」の懇談、国務、国防両省でも「バックグラウンド・ブリーフィング」があった。官邸クラブでは「オフレコ懇談」とオフレコの趣旨を誤訳のまま使っているが、日本ではおおむね匿名だが、記事にしてよい取材源との接し方だ。ウオーターゲート事件も取材したが、『ワシントン・ポスト』にリークし続けた「ディープスロート」は、全く分からずじまいだった。30年たって元FBI副長官・マーク・フェルトが自ら名乗りを上げて、やっと分かったのだ。「ディープスロート」からリークを受けた2人の記者は、社内の編集責任者にも明らかにしていない。必死で取材源を守ったのだ。
まずその紳士協定が、朝日新聞によって破られた。見出しを見た瞬間私は、瞬時に「こざかしいやりかただ」と思った。朝日は、7日付の朝刊1面で「『自民側は立件できない』発言の高官、民主、漆間氏とみて追及」という見出しをとったのである。どうしても名前を出して攻撃したいが、直接表現では官邸クラブでやり玉に挙がる。「民主党のせいにして、書いてしまえ」というやり方だ。実にきたないやり方だ。逆に言えば民主党に名前を漏らして追及させるやりかたではないか、と思いたくなる。いったん明らかになった以上仕方がないと思ったのか、官房長官・河村建夫が翌8日にNHKで名前を公表して、事実上の解禁となった。解禁にならなかったら、昔の官邸クラブなら朝日は除名だ。今度の鴻池発言はもっと悪い。野党に暴露させたのである。社民党党首の福島瑞穂が26日の参院予算委員会で、鴻池を名指しで「政府筋」発言の内容を質問したのだ。
これでは誰でも「政府筋」が鴻池であることが分かってしまう。野党にリークした記者がいたのだろう。両ケースとも、かって佐藤内閣時代に「情を通じて」外務省の女性秘書から入手した外交機密を社会党に質問させて、国家公務員法違反で有罪となった西山太吉記者の事件を想起させる。最近政治記者の懇談そのものを否定する論評が盛んだが、記者クラブの実態を知らない。本来なら独自取材でやるべきものだろうが、記者クラブ会員の数が多くなりすぎて、不可能だ。取材される側も多忙で全社に個別に会っていられない事情がある。長年の記者クラブと取材源との智恵で生みだされた方式なのだ。“懇談”の恩恵を享受しながら、その取材源を公表してしまう記者クラブ加盟社は、みずから同クラブを脱退して、独自取材に徹してはどうか。それにつけても首相官邸は、主もそうだが、補佐する副長官たちのレベルが低すぎて、弛緩している。こんな政権は見たことがない。
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