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2009-02-04 00:00
北朝鮮に対しては、無視が最善の策
李相哲
大学教授
「寝耳に水」ということばがある。韓国では「就寝中の殴り棒」という。突然、想像したこともないことで問い詰められたり、突然、とんでもないことを言われて驚く場合に、口にすることばである。北朝鮮の脅しがエスカレートしている。1月17日、朝鮮人民軍総参謀部スポークスマンを名乗る軍人が、軍服の姿でカメラの前に立ち、北朝鮮語特有のアクセントも気にせず、これから南朝鮮傀儡徒党(韓国)と「全面対決体制に入る」、「強力な軍事的な対応をする」と一方的に宣言した。いつもの狼少年だから、韓国の李政権も、オバマ政権も、日本も驚かないばかりか、それらしき反応すら見せなかった。それに腹を立てたのか、今度は祖国平和統一委員会の名の下、声明を出した。「1991年南北基本合意書および付属合意のなかのNLL条項(軍事関連合意)を廃棄する」と宣言したのである。
祖国平和統一委員会とは、朝鮮労働党の一部署である。軍も、何とか委員会も、金総書記の指図を受けているのは間違いないが、今回はみえみえである。脳出血で脳のどこかが損傷をこうむったのか、今回の挑発はタイミングも、方法もよくないし、意味すらない。まず、軍や一委員会が一方的に2国間合意を無効にすることはできない。声明文を逆によめば、彼等はいままで認めていなかったこれらの合意やNLL境界線(西の海にある北と南の境界線)を認めたことにもなる。それは、彼等の一貫した主張とは相反する主張である。今回の発表で意味があったとすれば、偉大なる将軍さまはともかく、軍や労働党は怒っているぞ、と言うことを知らせることができたことくらいだろう。この脅しが本当であるならば、北朝鮮が半島の西海で何らかの挑発をするかもしれない。
南でまともに反応したのは、暇な専門家連中のみであった。韓国政府は逆に、「親切な対応」に一貫している。すると、北は今度は鉄砲を持ち出してきた。2月3日、全長30メートルもあるデポドンを持ち出して、嚇そうとしている。「今度こそ本気だぞ」と謂わんばかりに、それを発射基地に運び込んでいる。デポドンは撃つのかもしれないが、どうせ海に向かってしか撃てないだろう。どこかに一発ぶち込みたい気持ちは分かるけれど、いくら悪い子供でも、その後どうなるかを知っているから、怖いのである。「そこで、遊びはおわりになる」という恐怖心がいつも付きまとっているだろう。事実、偉大な将軍さまにはそのような胆力がないと、彼を教育した体験をもつ黄長ヨブ氏は証言しているのである。とは言っても気になる。ほっておくと躾に悪いし、構うにはばかばかしい。
また、万に一つ、デポドンが予定した距離や方向に行かないことだって考えられる。北朝鮮が作ったものだ。なぜ、今、韓国も、日本も、アメリカも、経済問題で北朝鮮のことなど忘れているときに、また、アメリカから支援米が届いているときに、脅しをかけてきたのか。まさに、そのタイミングに注目すれば、北朝鮮の真意がわかる。大人は忙しくて、子供が少々いたずらをしても、悪いことをしても、構おうとしないからである。「どうせ自分で疲れてしまって、あるいは面白くないと感じて、静かになるだろう」と読んで、ほっといるのが、事の発端だと考えればいい。ややこしいのは、韓国や、日本、アメリカは、何事にも国内輿論を気にせざるを得ないことだ。
万が一、ちょっとしたこと(海でのいざこざなど)が起こったら、北の脅しを無視した政権に批判が集まる可能性だってある。北に対してではなく、自分の政府に対して、非難の声を上げる可能性がたかい。それに、民主主義国家のマスメディアは騒ぎが好きである。金正日がそこまで読んでいたとすれば、大したものである。どうすればいいか。方法は、一つしかない。北朝鮮が嫌がりそうなこと、怒りそうなことは、そのままやり通せばいい。ある芸能人が「健康の秘訣は何ですか」と聞かれて、「体の嫌がることをすることです」と答えるのを、耳にしたことがある。「北朝鮮に対する政策で、一番効果的な政策はなんですか」と聞かれたら、僕は躊躇せずに「北が嫌がることをやることだ」と答えたい。例えば、今なら、北に怒らないことが、北にとっては一番いやなことのはずである。
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