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2009-01-29 00:00
世界金融危機の深深層原因について
村瀬 哲司
龍谷大学教授
私は前回11月26日付けの本欄への寄稿の際、「世界金融危機の原因を表層、深層、深深層に三分類できると考える。表層の原因は、米欧金融規制の不備と金融工学への過信である。深層の原因は、節度を失ったドル基軸通貨体制であり、以上の表層、深層原因は政策対応が可能である。もう一つ深深層の原因は、人間のあくなき欲望、業、愚かさであり、これは対応不能である」と記した。今回はこの深深層の原因についてコメントしたい。
アインシュタインに「無限なものが二つある。宇宙と人間の愚かさである。前者については、断言できないが」という有名な言葉がある。人間の愚かさの例として、自然科学では原子力(核兵器)、化石燃料(地球温暖化)を考えるとよく理解できる。仏教では人間の煩悩として、三毒の筆頭に貪欲を挙げている。生きている限り、金銭に限らず、名誉、地位、家族、生命などあらゆるものへの執着を断つことは至難である、との教えである。現在の企業活動を見ると、この人間の愚かさ、貪欲さを増幅させるような制度が広がっている。一つは、企業会計における四半期決算制度と株主利益・配当重視主義である。これは経営者に対して、実現のための手段を問わず短期的利益極大化を求める。企業は「going concernであり、株主だけでなく、従業員、顧客、仕入先などの利益を考慮する社会的存在である」と、かつて経営学で習ったはずであるが。
いま一つは、金融の跋扈である。先進国では金融業の規模が製造業を凌駕するに至っている。投資顧問などの金融資産運用担当者は、期間運用利回りの成績が業界平均を上回ることが期待されており、運用成績に応じて報酬・人事が決められる。彼らは、たとえ怪しげな金融商品でも、同業者がそれで成功していれば、採りあげざるを得ず、またバブルは続かないと解っていても、降りられない。降りても他人に代替されるだけである。さらに米国連邦破産法チャプター11を経営戦略として乱用する傾向も、モラル・ハザードを招いている。たとえば、社債権者にチャプター11申請の脅しをかけ、債務切り捨てを強要する一方、経営者は巨額の退職金を手に転職するケースなどである。
かつては人間の金銭的貪欲さにブレーキをかけるものとして、「企業倫理」があった。20世紀の初頭マックス・ウェーバーは、資本主義の精神としてプロテスタンティズムの倫理、そして天職としての職業を説いた。しかし倫理観が薄れ、天職の意識が失われるにつれ、いずれ「精神のない専門人、心情のない享楽人・・・は、人間性のかつて達したことのない段階にまですでに登りつめたと、自惚れるだろう」と予見している。江戸時代の日本には、商人道があった。近江商人の商いの基本的心得は、「三方よし:売り手よし、買い手よし、世間よし」であり、社会的責任も規範としていた。住友家は家則で「いやしくも浮利に趨(はし)り、軽進すべからず」と戒めた。企業倫理は、期待こそすれ、強制できない。それどころか21世紀の今日、人間の貪り(グリード)にブレーキをかけるどころか、それを増幅する仕組みが制度として定着している。「バブルそして危機は再来する」と覚悟して、各人あらかじめ備えるほかあるまい。
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