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2009-01-10 00:00
(連載)「サハリン・フォーラム」で感じたこと(3)
袴田 茂樹
青山学院大学教授
十数年前に「サハリン・フォーラム」が始まったとき、ユジノサハリンスクの郷土博物館を訪問して驚いた。建物は日本時代のものを利用しているのだが、展示内容を見ると、サハリンの歴史にはまるで日本の樺太時代が存在しなかったかのように、まったく無視されているのだ。日本は、第2次大戦の時にソ連軍が戦った侵略者として扱われているだけである。その時以来われわれは、「歴史を客観的に見るのは、両国民の相互理解の基礎であり、ロシア国民のためでもある」として、「サハリン・フォーラム」でも問題点をしばしば指摘してきた。
その結果、博物館の展示は部分的に変更され、間宮林蔵の写真も示されるようになった。また、今年は10ほどある展示室の一つの部屋の壁の一面が、日本時代の展示にあてられていた。しかしその内容は、まだエピソード的で、日本時代にサハリンの開発や近代化、工業化が大幅に進んだことなどは、展示物からはほとんど分からない。私は「サハリン・フォーラム」の場で、「樺太時代に日本は植民地として搾取したのではなく、樺太を本土と同等に扱った。いや北海道以上に大規模な投資が行われて、工業化やそのためのインフラ整備が進展した」と説明した。
幸い、このような認識を共有しているサハリンの人たちがいることも分かった。数年前にサハリンの公文書館を訪問したとき、サハリンの歴史に関する展示が客観的なことに驚き、私はこれを高く評価した。今回、公文書局長のA・コスタノフ氏も「サハリン・フォーラム」に参加したが、最後の晩のレセプションの時に彼が、今年発行された本(大学教科書)だと言って、大部の『サハリンとクリル諸島の歴史』(ユジノサハリンスク、2008年、712ページ、1100部)をプレゼントしてくれた。コスタノフ氏も4人の著者の一人である。早速内容を読んで強い感銘を受けた。それは、サハリンの歴史を、日本時代を含めて、客観的に評価しようという意図が明確に感じられたからだ。
また、お土産店で入手した「樺太、サハリンの日本時代」(2007年)と称する2時間余りのDVDも観たが、その内容も、歴史を客観的に見ようという優れたものであった。このDVDの制作にもコスタノフ氏が関係し、出演もしている。また、プリゴロドノエの近くの日露戦争時の日本軍上陸記念碑が、無残に壊されて、放置されている現場も見学した。このような日本時代の歴史的な遺跡や記念物を保存しようという運動が、いま日露の協力で進められている。われわれを案内して下さったサハリン州国際・対外経済・地域間関係委員会の対日交流部上級顧問であるN・ヴィシネフスキー氏も、この状況に心を痛め、「樺太時代の歴史やその遺産にきちんとした対応が必要だ」と強調していた。このような前向きの動きをわれわれ「サハリン・フォーラム」もきちんと評価して、しっかりサポートしてゆきたい。(おわり)
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