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2009-01-06 00:00
イスラエルとパレスチナはどこへ行く
入山 映
サイバー大学客員教授・(財)国際開発センター研究顧問
イスラエルはガザへの地上軍投入に踏み切った。民衆を巻き込んだ非正規軍との戦いに「勝利」はなく、泥沼化するだけであることは、誰よりも良く知っている筈のイスラエルが、敢えてこの行動に出た背景については、憶測を含めていくつかの観測が乱れ飛んでいる。それについて論評する前に、意外に日本では知られていない、この半世紀を超える武力紛争の背景を若干紹介しておく。
イスラエル「建国」の経緯とその正統性については、よく知られていることから割愛する。ここでは、1948年から73年にかけてイスラエルが周辺アラブ諸国と4次にわたる「中東戦争」を闘い、その全てに勝利を収めたことを指摘するに留める。逆に言うと、そのうち1度でも敗北していれば、国の存在自体が否定・抹殺されていたことは確実だし、第2次大戦中のあのおぞましいホロコーストの記憶と重ね合わせれば、武力に対する絶対的な信頼が、いわば国家にDNAとして組み込まれていることに疑いはない。逆にパレスチナの側にしてみれば、ある日突然いかに旧約聖書を共に信じる経典の民とはいえ、移植してきたユダヤ人に住まいを、土地を奪われ、平和な明け暮れを瞬時にして喪失した怨恨も、ひとかたではない。なによりも、それから60余年の間難民キャンプに育ち、生活を営まざるを得なかった人々が、現在のパレスチナ人のルサンチマン(怨恨)の主流を占めている事実は忘れてはならない。その相克は、おそらく戦闘に疲弊しきったという情感が共有されるまでは、決してなくなることはないだろう、という見方には説得力がある。
それでも、パレスチナでアラファトの没後PLOのいわば主流派ファタハのアッバスが政権を掌握し、またイスラエルでタカ派をもってなるオルマートが首相になった時点では、両国併存のシナリオによる和平の可能性がにわかに現実味を帯びたことも事実である。オルマートは1999年の訪日時、既に日本人記者との会見で、「タカ派の脳は筋肉で出来ていると思っている人が多いが、それは誤りだ。民主主義を奉じる国で多数決原理を適用しないことはあり得ない。一つの国の中でアラブとユダヤのどちらの人口が多いかを数えるのに、高等数学はいらない」と発言している。その含意に無関心な日本のメディアは報道しなかっただけの話で、もしかして外人記者クラブで話していれば、トップニュースになっていただろう。和平はタカ派の手によるのでなければ不可能なのは、常識だからである。
ところが、アラファト以来の余りの政権の腐敗ぶりに愛想を尽かしたパレスチナ人が、総選挙で武力闘争路線を掲げるハマスを選んだ時から、事態が暗転した。ハマスは広く日本で信じられているように、やたら銃とロケットを振り回す武闘派集団という側面だけではなく、福祉や教育に熱心な市民社会組織の顔も持っている。が、この点についても、余り深くは立ち入らない。おそらく事態打開の唯一の方策は、パレスチナで再度総選挙が行われ、アッバス政権が多数派になることだろう。地上軍投入は、その事態を実現するために有効な手段だとオルマート(周知のように、汚職疑惑で政権の余命は限られている)は考えたのではないか。その判断の当否は別にして、目下のところイスラエル世論は圧倒的に軍事行動を支持しているようである。
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