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2008-11-18 00:00
官僚制度改革の難しさ
入山 映
サイバー大学客員教授・(財)国際開発センター研究顧問
政治学、行政学の専門家であり、その分野で多数の著述をもつ本田弘日本大学名誉教授は、官僚主義の特徴を「先例踏襲、繁文縟礼、瑣末主義、事大主義、責任回避、尊大横柄」と喝破しているが、これを単なるお役人に対する悪口雑言と読むのではことの本質が見えてこない。古今東西を問わず、役人というのは、税金を取り立てると同時に、それを遣ってしまう人々だ。これを勝手気ままにやられてはかなわないから、代議制民主主義、議会による立法、法治主義(rule of law)などで縛り上げておく。それでもお身内で何が起こるかは、最近のニュースだけでも十分知れるというものだ。が、論点はそこにはない。
役人の本質は国民の税金を使う、使い切るところにある訳だから、自分勝手に創意工夫に満ちた新たな使い道を次々と考えられては、迷惑というもの。だから、先例は踏襲してもらわなくては困るし、一寸くらいいいじゃないか、が塵も積もってもらわないように、繁文縟礼、些末にこだわって、きっちり決められた通りにことを行って頂く他はない。これをつかまえて頭が固いの、融通が利かないの、と悪口を言うのは、猫をつかまえて、ワンと鳴け、というようなもので、全く当たらない。その結果、役人がおそれるのは、効率的にカネを使ったかどうかよりは、決められた通りに使っていない、と非難されることであって、ならば上司のいう通り(事大)にことを取り仕切り、いざとなっても、それは決められている通りにやったまでのこと、自分の責任ではありません、というのが、最重要な生活信条になる。使って良いといわれたカネを、決められた通りに使っているのだから、部外者たる納税者が何を言おうとも、「素人が何を言うか」という態度を取るのが、尊大横柄に見えても、それはやむを得ない副産物なのである。
だから、役人に自浄作用を期待するというのは、魚屋へ行って人参をくれ、というようなもので、出来っこない相談だ。だから、やり方が不満だったら、ルールを変えるしかない。今のルールのままで「柔軟な解釈」によって対応する等というのが、いかに馬鹿げたことかは、先に述べたところから明らかだろう。これは役人の能力をいたづらに貶めたり、蔑視している訳でも何でもない。制度設計がそのようになされているものを、そうではない運用をしようというのは、自動車に空を飛べと言っているのと変わらない。自己保存の本能が役人にもあるのは、これは当然すぎるくらい当然のことだから、ルール変更には「身体を張って」抵抗する。それを良いの悪いのというのが、当たらないことについては既に述べた。
制度を、ルールを変えるしかない。ところが制度とルールについては専門家なのもまた役人だ、というのがことを難しくしている。政治家がもっともらしく提案する制度改革、行政改革なるものの多くが、実はお釈迦様ならぬ役人の掌の上で踊る孫悟空もどきになるのは、このためだ。どこから始めるか。どの程度から始めるか。改革に見えて、実は位置エネルギーの再確認に終わっているのではないか。その「めきき」が今ほど求められている時はない。
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