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2008-11-12 00:00
「田母神論文」問題の本質を見据えたい
花岡 信昭
ジャーナリスト
田母神俊雄・前空幕長の「論文」問題は、なにやらおかしな方向に波及しつつある。ひとつは、退職金の返納を求めるという話だ。懲戒免職になったのならともかく、防衛省は定年退職というかたちを取った。退職金の返納というのは、田母神氏にいわば「非行」があったということになる。これはスジ違いというべきだ。田母神氏が返納に応じたら、自らの「失態」を認めたことになってしまう。論文が最優秀賞になったことで、「お騒がせ」したのは事実だが、それ以上でもそれ以下でもない。むしろ、田母神氏はこの論文によって、自虐史観や東京裁判史観からの脱却という重いテーマを表舞台に引き出してくれた。その功を認めるべきである。
それから、航空自衛隊幹部ら78人が応募していたことも明らかになったという。当方はこの論文募集に審査委員として関わったことを明らかにし、選考経過などもあちこちで書いたりしてきた。その立場からすると、入選作13点以外は関知しない。論文審査は何度も書いてきたように、執筆者の氏名を削除したもので行い、最終段階で氏名が明らかにされたのだ。入選作以外については、たとえ知っていたとしても、明らかにすべきではないというのが、こちらの立場だ。これは個人情報に属することでもある。航空幕僚監部教育課が応募を呼びかけたことが問題となっているようだが、空自幹部たちが「近現代史」について日ごろ感じていることを論文にまとめて、応募することのどこが悪いのか。
むしろ、空自幹部たちの意識の高さを改めて知った思いだ。これは自衛官が個人の意見を外部で表明することの是非という問題にもつながる。基本的には、封殺することのほうが危険だ。民主党などは幕僚長人事を国会同意人事とするよう、求める方針という。国会同意人事があまりに多すぎて、日銀総裁の空白といった事態を招いたことも想起したい。自衛隊トップは、ときの政権がその責任において決めればいい。いまのような衆参ねじれの政治状況下で自衛隊幹部人事が政争の具になることのほうが、よほど危うい。
自衛隊トップが空席になったりしたら、安全保障の根幹にかかわることになる。要は、自衛隊という国家の「戦力」を有した巨大組織を、いかなる立場に置いておくことが望まれるか、という根源的な問題に突き当たる。言いたいことも言えずに「貝」になることを求めるのか。それがシビリアン・コントロールとは思えない。責任のある論議ならば、制服が表でいかなる発言をしようと、これを認め合う寛容さがほしい。自衛隊を逼塞状態に追い込むことは、政治にとって最悪の策だ。
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